第11話 独立!

「うちで働いてどれくらいだっけ?」


上司から唐突に投げられた質問。


「来月で1年くらいになります。」


「ふーん、そっか。」


意味深。


「何かあったんですか?」


聞かないわけにはいかない。不安が脳裏をよぎる。


「うちの法人で居宅を廃業させる話しが出ている。」


「???」


すぐには理解ができなかった。居宅とは「居宅介護支援事業所」の略称。つまりケアマネジャーの事務所のこと。


私が勤める会社の母体は医療法人。クリニックが主体となった法人。


上司の話では我々、介護保険事業を担当する部署、特に居宅介護支援事業所が赤字続きで問題になっている。


他にデイサービスや通所リハビリテーションの事業所も運営していたが、居宅介護支援事業所だけが赤字。ここを何とかしたいとのことだった。


「自分の会社で居宅介護支援事業所だけ引き取らない?利用者さんたちが了承するならそのまま引き継いでもらって。」


素晴らしい話だ。しかし、私は戸惑った。ケアマネジャーになって1年弱。数ヶ月後には独立し、事業所を運営できるのだろうか。


不安しかない。


「少し、考えさせて下さい…」


ありきたりな返答をしてしまった。


「いや、ダメ。今決めて。やるか、やらないか。」


「やります!」


やるしかない。見切り発車の感は否めないが、決断した。


「よし!そしたら指定申請とか、利用者さんの説明とか諸々進めて。指定申請の雛形はこれを見て。」


突然動き出した独立話。


この突然の話がこの後起こる大事件の序章にすぎないことに、当時の私は全く気づいていなかった。


                  つづく

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