5年習ったギター講師が実は◯◯だった話⑤
上を見て成長するタイプと、下を見て成長するタイプがいて、私は下を見て成長するタイプなのだろうと、エレキギターをかき鳴らした自分を鏡越しに見て思う。
社会人としての常識的がきちんとあり、ギターも上手いギタリストに習うより、
ギターも微妙で、自分の予定も把握できないダメなギタリストに習った方が、こんな人でも先生と名乗って、生徒を教えることができるんだなぁと。頑張らなきゃと思う。
習い始めてもう2年。
今日のレッスンは18時からだった。朝が苦手だろうと思って、最初に遅刻されてからはずっと、夕方や夜のレッスンに合わせてた。
それなのに。
LINEを開く。
17:01の伊坂からのメッセージには、
「すみません、今日のレッスンですが、体調が悪くて。ギリギリまで考えてて連絡遅くなって申し訳ございません。スタジオは使っていただいて構いません。スタジオ代は次回お支払いします」
体調が悪くて。だから何。来るの?来ないの?
はっきりしない言い方をし、相手に想像させるのは京都人特有だ。伊坂の出身地、京都。
言葉のまま受け取る神奈川県出身の私には通用しない。
スマホをしまう。返信なんてしてやらない。
レッスン時間の1時間前にドタキャン。私が行かなければスタジオも困る。
周りの迷惑、人の時間を奪う行為、自分さえよければそれで良い。口先だけの謝罪。少しずつ溜まる不満は、自分の心の狭さだと思って戒める。
普通は相手のことを考えて、来れないならもっと早めに連絡するだろう。
そもそも今日のレッスンは、「ダブルブッキングしたので日程変えてほしい」と連絡がきて決めたレッスン日。
ダブルブッキングするほど仕事があるのか。
たまにツイッターで検索する「伊坂平太周」を見ても、何年もその名前をツイートしてる人はいない。
おかしいなと思う。いくらサポートメインの仕事でも、誰かしらいるだろうと。
もしかしたらバンドをやっていて、別の名前で活動してるのかな。
直接聞けば良いだけなのに、詰まる距離感が嫌で、プライベートのことは一切話さない。
まぁ、別に良いさ。雑に扱われたって。雑に扱われるということは、こちらも伊坂を雑に扱っても良いと言うことなのだから。
自分は良くて、他人はダメは、悪意の塊。
反撃される怖さを知らないのはイケメンだから?
お互い雑で、気楽に行こうな。
心の中で毒を吐き、
「わかりました。お大事にしてくださいね」
と返信した。
優しく。優しく。
いつまでも、甘えて過ごせば良い。たくさん甘えて甘えて、最後にどこに流れ着くのか見届けてやる。
苛立ちを抑えながら、iPhoneをBluetoothでスタジオのスピーカーに繋ぐ。
伊坂が来ない日のスタジオで、何回もスタッフさんに教えてもらったので、もう慣れた。
スピーカーから流れる、ジョージ・ベンソンのAffirmation。
一つずつタブ譜を見ながら覚えていった。早く弾くところは伊坂も弾けないと言っていた。
ここを私が弾ければ、私は伊坂を越えることになるのだ。
ジャズが好きだ。伊坂ができないから。
伊坂ができないことを、私はしたいと思う。
「ここの早く弾くところ、スウィープだと思うんですけど、どう弾いてるんですか」
「わかりません!笑
自分弾けないんで!」
そう言って笑う伊坂を見ると嬉しくなる。
じゃあ私、弾いて見せますよと、やる気が出る。
レッスンをすっぽかしたり、弾けないのに頑張ろうとしなかったり、
そういう態度は恥ずかしいと思わない伊坂。
少し、恥を知ったほうがいいと思う。
伊坂が甘えて育つ間に、私はもっともっと努力して、上手くなってやろうと思う。
下を見て、上に行ってやる。
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