5年習ったギター講師が実は◯◯だった話③

久しぶりに伊坂平太周本人のツイッターが更新された。


「明日ライブですー!来てくださいー!」


フォローしてないから通知は取れないけど、毎日の散歩コースのように巡るアカウントの一つに伊坂はいる。

会いたい時に会いに行けるような関係が好きなので、好きな人ほどフォローしない。

フォローして、お気持ち表明ツイートがだらだら流れてきた瞬間、サッと冷めてしまう性格の私。

バレないように、こっそり覗きに行く感じが好きなのだ。


明日、、。仕事は休み。

一応習ってる先生な訳だし、1回くらいライブを見ておくか、と言い訳してみるけど、純粋に見たかった。伊坂のライブ。

普段先生してる伊坂がどんなライブをするのか。


韓国の男性シンガーのサポート。


私が来たということが絶対にバレないように、大きめのマスクをし、伊達メガネをし、開場のタイミングで出くわさないように少し遅れて行った。


受付で名前を言って確認してもらってるときに、レッスン時も派手な服なのに、さらに派手な赤系の柄物シャツで、太ももあたりまで破けたジーパンを履いた伊坂が横を通った。

ドキっとした。


破れたジーパンから見えるのは、今日は赤みを帯びた皮膚。生命力を感じる。生々しくてエロい。

普段ストレートで綺麗な髪の毛が、パーマをかけたのか汚らしくうねっている。全く似合ってない。


バレないように顔を背ける私。

何も気付かずに通り過ぎる伊坂。


すでにライブは始まってて、伊坂のサポートはこの後のようだ。


フロアに入ると身動きができないほど女子がたくさん詰まっていた。ここでやるのか。ならバレずに済む。

曲もノリ方も知らない男性シンガーの歌を地蔵で聴く。ステージの段差はほぼないのでほとんど見えなかった。

かろうじて女子の隙間から見えるステージには、伊坂が普段使っているアコースティックギターとエレキギターがあった。


曲が盛り上がり、次の曲となったところで伊坂がやってきた。

段差がないステージなのに、椅子に座ってアコギを構えた伊坂はほとんど見えない。


「しっとりした曲なんで、みなさん座りましょうか」


男性シンガーが言った。


これだけ密集したフロアで、スカートやヒールを履いた女性を汚い床に座らせるのか。何もわかってない。


もみくちゃになりながら前列の方から女性が座り始めた。

私は絶対座りたくなかったので後方へ移動して立ってたら、伊坂がとても見やすくなった。


目が合った気がした。バレたかな。

ヒヤヒヤしながら伊坂の弾くギターを聴いた。


譜面ばかり見てる伊坂に安心して、ずっと伊坂を見てた。

細いなと思う。骨格が細くて、モヤシ、、と、男性に使うには失礼な例えも、伊坂に使うなら、きっと褒め言葉になる。


フロアにいる女性達はみんな男性シンガーを見ていて、私1人が伊坂を見ているような気がした。

サポートとはそんな仕事で、女性達は伊坂が伊坂という名前であることも知らないのだろう。


興味がないの?もっとよく見たら良い。

男性シンガーよりも遥かに、伊坂の方がカッコいい。


私を教えてる先生はこの先生なのだと思った

ら、もっと頑張ろうと思った。認められたいと思った。見てほしいと思った。


1曲だけ聴いて、フロアを出た。長居するとバレる。

出る時に少し視線を感じた。たぶん気のせいだ。

「早めに出て行った人がいたな」くらいには思うかもしれない。


明日はレッスン日で、昨日のライブのことなんて何も話さずレッスンがスタートするのだろう。


もちろん、私がライブを見ていたなんて知りもせずに。

その事実を思うと、小学生の頃に好きな男子の机に、こっそりバレンタインチョコを忍ばせた時の気持ちが蘇った。


こっそり思いを寄せ続けたあの気持ちは、現在の私にも強く残っている。

何も知らない伊坂。


こっそりと見させてもらった。

仕事をしている姿は良いなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る