5年習ったギター講師が実は◯◯だった話②
「LINE教えてもらえますか?メールだとめんどくさくて」
「はぁ」
ミュージックスクールの先生が、生徒個人のLINEを聞くなんて。と思いながら、そのイベント発生を楽しんでる私。
あまりにも自然に聞かれて、慣れているんだなと思う。
仕事関係ではない男性とのLINE交換に、少しドキドキした。そんなこと数年ぶりだ。
QRコードを見せて、読み取って、登録。
自然と近くなる距離に照れる。私の手、震えてないかな。
もう10回目になるレッスンを終えた。
音楽理論について知りたいと思ったので、今日はそういうレッスンをお願いした。
「トニック、サブドミナント、ドミナント。サブドミナントはコンビニで、トニックは自分の家みたいなもんです。女の子(ドミナント)の家行っても、最後は帰りたくなるやろー。そんなん笑」
伊坂が言う。
下品な例えに思わず苦笑いする。
スタジオという密室で、異性相手にする話ではないと思う。
「先生は、女の子の家に泊まることはないんですか?」と、もっと下品なことを言ってやりたくなる。
ところで「帰りたくなる」ってなんだろう。
それはプレイが済んだらすぐに帰りたくなるって意味かな。
プレイ後は布団の上で手を繋いだりハグしたり、嘘でも良いから無駄な時間を過ごさないと嫌われるよ。
すぐにお風呂に入ったり、タバコを吸う男は嫌われる。少なくとも私は嫌いだ。
そんな妄想が頭に浮かぶ。
ホワイトボードに絵を描きながら、自分の家と、コンビニと、女の子の家を結ぶ線。
自分の家からコンビニに行って、女の子の家に行って、最後は自分の家に戻る。
コンビニで買うのはタバコと酒と避妊具かな。そういう男はクズだと思う。いや、避妊具買うだけマシか。
新発売のスイーツとハーゲンダッツと、堅揚げポテチとキレートレモンなら完璧だ。避妊具は常備しとけ。妄想が飛躍する。
その下品な例えはきっと、伊坂本人ではなく、伊坂に理論を教えた誰かの例えなのかなと思いながら、
女の子の家に泊まる伊坂を想像する。
ええなと思う。
ええな。伊坂に時々現れる関西弁が感染る。
「スケール練習しましょう。ペンタトニックを」
伊坂が言う。
「ペンタは嫌です」
即答する。
ペンタは5音しかないから嫌い。空白が多すぎる。
フリジアンスケールが好き。マイナースケールよりも2度を半音下げたどんより感。
どこまでも落ちていく暗さのある世界観。
好きだ。
「え、と。おもんないすか?笑」
「おもんないです」
「笑」
おもんないですよ先生。今日のレッスンは全部理論書に載ってるのでおもんないです。
毎日4時間くらい、睡眠時間を削って理論書を読んでる。ノートに模写しながら。
黙る私がそんなに怖いのか、私が黙れば黙るほど、伊坂は喋り続ける。
喋るのが好きというよりは、空白を埋めるように喋る。浅い会話に慣れてる喋り方。
LINE交換して、伊坂のアイコンを確認したら、
ライブ中に撮られたと思われる、顎下からの角度の伊坂本人。
背景は青紫色のライトに照らされている。
元々肩につきそうなくらい長い髪が、そのアイコンはさらに長かった。
自分が1番かっこいいと思ってる写真だなと思う。
ナルシスト。
数少ないLINEの友達一覧に追加された、私とは住む世界が違うような伊坂。
LINEを開くと、トーク一覧の1番上に来るようにピン留めしておく。
誰かに見られた時に、私にはこんなパリピでかっこいい友達がいるのだと見せびらかせるように。
少し、強くなった気がした。
たぶん私は、この先生が好きなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます