第13話


結局その後、誰一人として俺の元に謝りに来る生徒はいなかった。


授業中も休み時間も、教室内には地獄のような気まずい雰囲気が漂っていた。


朝担任から連絡があった通り、如月が学校に来ることはなかった。


きっと今頃警察に勾留されて色々と事情聴取

されているのだろう。


全てがバレてしまった今、如月が今度学校に姿を現したら、以前の俺のように袋叩きに合うかもしれない。


俺に代わり、今度は如月がいじめられる可能性もある。


それが怖くて、如月はもう学校に来れないかもしれない。


だが、そんなことは俺には関係ない。


如月がこれからどうなって,学校や世間からどう言う扱いを受けたとしても俺には関係のない話だ。


あいつが一体どう言うつもりで俺を罠に嵌めたのかはわからない。


だがたとえどんな理由があれど、俺があいつに同情したりすることはないだろう。


文字通り、あいつは俺から全てを奪い、人生をぶち壊してくれたのだから。



= = = = = = = = = =



「はぁ…だるいな…」


放課後。


俺は一人、部室棟に向かいながらため息を吐いた。


地獄のように気まずい授業時間が終われば、当然放課後には部活が待っている。


すでに俺が無実で如月が嘘をついていたことは、部活の連中にも伝わっていることだろう。


つまりもうゲームで俺一人だけ削りまくられたり、片付けを押し付けられたりする心配はない。


むしろ、部員全員で袋叩きにして俺を追い出そうとしていた連中が、俺が無罪だったと知ってどんな顔をするのか見ものだ。


「まぁどうせ他の連中と大差ないんだろうけど」


俺はサッカー部の連中に対して特に期待はしていなかった。


おおかた事件の真相が明らかになったことに対する反応は他の生徒たちと変わらないだろう。


素直に謝罪を口にせず、口を閉ざし、都合の悪いことから目を逸らすのだ。


自らの謝りをただせる人間というのはこんなにもいないものなのだと俺は今回の件から十分に学んでいる。


まぁ元々謝ったところで彼らのことを許すつもりもない。


特にゲーム中、彼らが俺に行ったことはサッカーにかこつけた暴力沙汰に近かった。


足の裏からボールではなく俺の体へとスライディングしてきて、俺を倒す。


その後、倒れている俺に対して何度も蹴りを入れてくる。


本番の試合でやれば一発でレッドカードで退場になるようなプレーを、監督やマネージャーは見て見ぬふりをしていた。


あの事件以降部活に参加した俺の足は、どこもかしこもあざだらけだ。


多分、暴力事件として部員たちを訴えることも出来ると思う。


まあそこまでする気は俺にはないが。


どちらかというと俺はもう彼らに関わりたくないという気持ちの方が強かった。


「あ」


「あっ」


「う」


「あ……」


「やばっ」


「ん…?」


部室棟を歩き、サッカー部の部室にたどり着いた俺が中へ入ると、何人かの後輩部員と一斉に目が合い、気まずい空気が流れた。


見れば、後輩部員たちは俺のロッカーの前にしゃがんで、スポンジで俺のロッカーの落書きを擦っていた。


俺にしたことを公開してロッカーをきれいにしようとしている……というよりは、どちらかというと自分たちが過去に犯した愚行の証拠を消そうとしているように見えた。


そのことを肯定するかのように、誰も俺に謝ってこようとしない。


両親や妹、クラスメイトやその他の学校中の生徒たち同様、何か俺から言って欲しそうな態度を醸し出しながら、俯いて黙っている。


「…」


俺は無言で自分のロッカーの前まで歩いた。


後輩たちが慌てて道を譲る。


「使うから、どいてくれないか?」


「…!?」


俺のロッカーの前で濡れたスポンジを持っていた後輩が、慌てたように動いて俺に場所を譲った。


俺は無言で突っ立っている彼らに背を向けて、着替え出した。


何か言いたそうに咳払いのようなものが後ろから聞こえてきても全部無視した。


結局彼らが、何か謝罪の言葉を口にすることはなかった。


もとより期待もしていなかった俺にとって特に驚くようなことでもなかった。


そのまま俺は、後輩部員たちに無言で見守られながら着替えを済ませ、一人で部室を後にしたのだった。

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