第12話


「おいおい、お前ら。それはないんじゃないか?何か透に言うことがあるだろ」


クラスメイトたちが口を閉ざしてダンマリを決め込むなか、唐突に隼人がそんなことを言い出した。


「隼人?」


名前を呼ぶと、隼人は手で俺を制した。


それからクラス全体を見渡して、明らかに苛立ちの滲んだ口調で彼らを責める。


「お前ら透に散々酷いことしたよな?犯罪者呼ばわりして、暴言たくさん吐いて、陰口好きなだけ叩いて……机に落書きまでしたよ

な?」


「「「…」」」


「その結果、透は無罪だった。お前らが透にやったことは全くの不当な最低行為だったわけだ。無実の透をお前らは犯罪者扱いして、リンチした。どう落とし前つけてくれるんだ?」


「隼人…いいって。もういいんだって…」


俺は、おそらく俺の代わりに気持ちを代弁してクラスメイトたちに言い返してくれている隼人を止めようとする。


隼人の気持ちは嬉しかった。


実際、隼人が言っていることは、俺が言いたくても言えないことだったし、隼人のお説教にクラスメイトたちが口を閉ざして俯いている姿には、ザマァ見ろと思わなくもなかった。


だが、俺のために隼人がわざと嫌われ者の役を勝って出るのは見過ごせなかった。


俺のために隼人が生徒たちに嫌われる理由はない。


誰も信じてくれなかった中、理沙と一緒に俺の主張を友人として最後まで信じてくれただけでも感謝しているし、もうこれ以上俺のために隼人が何かする必要なんかないと思っていた。


「隼人…ありがとう俺のために…でももういいから…気持ちは晴れたから…」


もちろんクラスメイトに対して俺はまだ憎しみを抱いていた。


だが隼人を止めるために俺はそんなことを口にした。


「だめだよ…!!止めないで透!透は優しすぎるよ!!!」


「え…?」


だがそんな俺を止めたのは、隼人ではなく理沙だった。


理沙は、隼人と横並びになって、追随するようにクラスをぐるりと見渡して、彼らが俺にしたことを非難する。


「あなたたちは間違ってた!!透は犯罪者じゃなかった…!!!」


「「「…」」」


「透はずっとそのことを一人で主張してた。

みんなになんと言われようとも……自分の無罪を訴えてた。なのに誰も信じなかった。みんな証拠もないのに如月さんの言葉だけを信じて、透のことを蔑ろにした」


「「「…」」」


「あなたたちは間違っていた。まず、そのことを透に謝るべきなんじゃないの?勘違いで透を責めてみんなでリンチしたことを謝罪するべきなんじゃないの?」


「「「…」」」


理沙が必死にクラスメイトたちに訴えかける。


俺が言いたくても言えなかったことをそっくりそのままクラスメイトたちにぶつけてくれる。


理沙の言葉には、他人事とは思えないような重みがあった。


まるで自分のみに起きた出来事のように、クラスメイトたちを非難し、謝るように諭してくれる。


「理沙…」


俺は胸が熱くなった。


もちろん、ここで謝られても俺はクラスメイトたちを許す気はなかった。


だが、隼人と理沙だけは何があっても信用できると思った。


この二人が俺の親友でいてくれて本当によかったと心の底からそう思った。


「謝って!!!透に謝って!!!」


理沙は必死にクラスメイトたちに謝罪を促し

た。


だが、クラスメイトたちは口を閉ざしたままだった。


「なんだよこいつら…」


「なんなのこの人たち…」


隼人も理沙も、誰一人として謝罪の言葉を口にしようとしないクラスメイトたちに絶望する。


二人の表情が、目線が、どんどん冷えたものになっていく。


「自分の過ちを正すこともできないのかよ…?」


「なんで謝ることもしないの…?透にあんな酷いことしたのに…」


「いいんだ二人とも…俺のために本当にありがとう。そろそろホームルームの時間だから……な?」


俺は立ち上がり、二人の肩に手を乗せてそういった。


二人は時計を見て、しばらく逡巡した後、俺に頷きを返してきた。


「頑張れよ、透…」


「何かあったら私たちに言ってね…」


「ああ」


「とにかく……無罪確定おめでとう」


「透が無実だってことが広まって本当に嬉しかった」


「ああ……俺もお前らが友達でいてくれて本当に嬉しい。感謝してる。だから……今はもう、な?」


「おう」


「うん…わかった」


二人は渋々といった感じで教室を出て行った。


隼人と理沙がいなくなった後、教室はまた地獄のような雰囲気に戻った。


クラスメイトたちは、まるで教師に説教を受けた後みたいに俯いて静まり返り、どこからかヒソヒソと負け惜しみのような囁きが聞こえてくる。


「何あれ…全部私たちが悪いって言いたいの…?」


「私たちは如月さんのために行動しただけなのに…」


「むしろ私たちは如月さんに騙された被害者なのに…」


「許してくれたっていいじゃん…」


「あんなに言うことないよね…?」


「…っ」


俺に謝るどころか、クラスメイトたちの方を許さない俺が悪いみたいな囁きが聞こえてく

る。


おそらく如月をかばい、積極的に俺を叩いていた女子連中のものだろう。


「クズが…」


俺は元々彼らを絶対に許さないと決めていたが、このことでさらにその決意が固まった。


「お、おはようーす……みんないるかー…」


やがてホームルームの時間になり、担任が気まずそうに教室に姿を現した。


生徒たちの間に流れる地獄のような空気を察して、咳払いをした後、担任は如月が事件に巻き込まれ、しばらく学校に来れないことなどを話したのだった。


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