第11話
家族を無視して家を出てきた俺は登校路を歩いていた。
先ほどのことについて、俺は全く自分の行動を後悔していなかった。
むしろ冤罪だったことが判明したにも関わらず、全く謝罪がなかった家族と金輪際拘らず縁を切りたい気分ですらあった。
彼らは、俺が如月にかけられた冤罪を本当に罪を犯したと信じて、俺を邪魔者のように扱った。
妹は俺のことを犯罪者だと呼び、見るたびに暴言を吐いてきた。
両親は俺のことを息子じゃないといい、飯をつくろうとすらしなかった。
俺がどんなに無罪だと主張したとしても耳を貸してくれることすらなかった。
彼らは今まで長年家族として過ごしてきた記憶を一瞬で忘れて、その他大勢と一緒になって俺を追い詰めたのだ。
そしていざ俺の無罪が発覚すると、気まずそうにするだけで謝罪の言葉すらなかった。
あの時両親が俺に向けてきた視線は、何か俺の方から言ってくれるはずだ、という期待に満ちていた。
まるで俺の方から「今回のことは水に流すよ」と言って欲しそうな雰囲気を感じた。
「言うわけないだろ……許すわけないだろ……自分達が俺に何をしたのか、よく考えやがれ……」
自分でも驚くほどの憎悪が言葉にこもっていた。
正直に言って、もう両親と妹を、家族として見れないと思っていた。
たとえこれから今までのことをどんなに謝罪されたとしても彼らのことを許せるかわからない。
一度あの三人に対して抱いてしまった疑念はたぶんもう拭い去ることは出来ないだろう。
俺とあの三人の間には決定的な溝ができてしまった。
「ん…もう学校か…」
そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか学校に到着していた。
俺は昨日までのように肩身を狭くしてこそこそするのではなく、堂々と校門から学校の敷地に足を踏み入れる。
情報伝達の早い現代社会だ。
今朝のニュースは多分、SNSや学校のネット掲示板を通してすでに広まっていることだろう。
学校中の大部分の生徒に、俺が無罪だったこと、如月が俺を騙し罪を着せたことがすでに広まっているに違いない。
さあ、今日まで俺を犯罪者と呼び、好き勝手に罵り、リンチしてきた連中は今どんな顔をしているんだ?
俺は、如月の嘘に踊らされて俺のことを犯罪者扱いした生徒たちの顔を見てみようと、周囲を見渡した。
「「「「……」」」」
は…?なんだこいつら。
全員口を閉ざして黙っているんだが。
何か言うことはないのか?
昨日まで散々俺のことを犯罪者だと罵ってたよな?
警察の捜査で俺の無罪は晴れて確定したわけだが……それに関して俺に何か言うことがあるんじゃないのか?
お前ら散々俺に悪口言ってきたよな?
犯罪者。
レイプ魔。
死ね。
消えろ。
退学しろ。
無罪の俺に向かって、如月の嘘を真に受けて好き勝手に暴言を吐いて罵ってきたよな?
それに対して謝罪の一言もないのか?
悪人には制裁を求めるくせに、自分の過ちは見て見ぬ振りか。
「なんだこいつら……」
俺は思わずそんな呟きを漏らした。
昨日まで、俺が学校に来るたびに色々悪口を言い、陰口を叩いていた連中は、まるで先ほどの両親と妹のように口を閉ざし、気まずそうにしながらこちらをチラチラと見ていた。
誰も俺に謝罪したりはしない。
俺と目が合うと、都合が悪そうに目を逸らし、無言で歩き去ってしまう。
「なんだ…結局そうなのか…お前らも両親や妹と同じか…」
自分の過ちを認められない人間。
間違ったことをしたのに謝罪の一つすら出来ない人たち。
俺は都合のいい子の学校の生徒たちに幻滅し、もう周りを見ることもしないで校舎へ向けてひたすら歩いた。
結局教室にたどり着くまで俺は、誰からも謝罪されることはなかった。
= = = = = = = = = =
ガラガラ……
「あ」
「あ…」
「きた…」
「…」
教室の扉を開けて、中へ入ると気まずそうなクラスメイト何人かと目があった。
彼らは「あ」と一瞬声を発した後、さっと目を逸らし、都合が悪そうに下を向く。
俺が自分の席へと向かう間、昨日までのように誰も暴言を吐いてくることはなかった。
どうやらすでに今朝のニュースの話はクラス全体に広まっているようだった。
嘘をついていたのは如月の方であり、俺は全くの無罪だったことがクラスメイトたちの間で共有されているようである。
「…」
俺は無言で自分の席へと歩いた。
クラスはしんと静まり返っていた。
信じられないほどに気まずい空気が漂っていた。
コツコツと俺の靴音だけが虚しく教室内に響いていた。
「…」
席についた俺は、椅子の上と机の中を確認する。
今日も当然のように画鋲が仕掛けてあった。
俺はそれらをつまんで集めて、ゴミ箱に捨てに行った。
画鋲をゴミ箱に放り込み、チラリとクラスを見渡すと、俺を見ていた何人かの生徒がさっと目を逸らした。
教室内は時が止まってしまったかのようにし
んと静まり返っていた。
俺はクラスメイトたちをぐるりと見渡し、思わず「何か言うことがあるんじゃないか」と言いそうになった。
昨日まで散々リンチされ、いじめられ、犯罪者扱いされた腹いせに、今度は冤罪で人を責めていた彼らを思いっきりに非難したかった。
自分にはその権利があると自信を持って言えた。
だが、俺は何も言わなかった。
俺は彼らに完全に幻滅していた。
未だ誰からも謝罪はない。
俺が犯罪者と言うことになっていた時は、あれだけ好き勝手に暴言を吐いていたくせに、無罪が確定した途端に全員が口を閉ざしていた。
俺はチラリと如月の席を見た。
そこに当然如月の姿はなかった。
現在は警察の事情聴取で勾留中だろうか。
父親ともども警察官にきつい尋問でもされているのだろうか。
俺にはわからない。
あいつがどうなっていようともはやどうでもいい。
ニュースによれば、あいつは父親に日常的に性的虐待を受けていたようだが、そんなことであいつにかけらほどの同情心も湧かない。
あいつは俺の人生を壊したのだ。
クラスメイトや学校中の生徒に嘘をついてけしかけて俺をリンチさせ、家族と俺の間に決定的な亀裂を作った。
順調だった俺の人生はあいつのせいでめちゃくちゃになった。
俺は如月を何があっても絶対に許さない。
クラスメイトや家族たちに関しても、たとえ今からどんなに謝られても信用することはないだろう。
「透!?」
「透!来てたのか!?」
気まずい空気の流れる教室に突如として二人の声が響き渡った。
男子生徒一人、女子生徒一人が、俺の元に嬉しげに駆け寄ってくる。
隼人と理沙だ。
俺の元までダッシュで駆け寄ってくると、まるで自分ごとのように今朝の無罪のニュースのことについて話してくれる。
「今朝のニュース見たか!?お前の無罪が確定したぞ!!全国に報道されたんだ!!」
「如月さんが嘘ついて透のことを嵌めたって供述したんだって!!!やったじゃん!!これで透の無罪は完璧に証明されたね!!!」
「やっぱり如月がお前を嵌めたんだな!!俺たちの勝利だ!!!やったな透!!!」
「はあ…本当によかった…真実が広まって私、安心した」
口々にそんなことを言ってくれる二人に俺は笑いかけた。
「ありがとう二人とも。俺のことを最後まで信じてくれて。他の連中とは違って俺の意見にも耳を傾けてくれて本当にありがとう」
そう言って俺は周囲を見渡した。
クラスメイトたちは気まずそうに俯いたままだった。
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