第7話


〜如月姫花視点〜


私が東雲透をレイプ魔に仕立て上げたのは、彼が私より幸せな人間だからだ。


私、如月姫花はとても不幸な女の子だ。


小さい頃に大好きだった母が死んだ。


父親のDVで精神的に追い詰められ首を攣って自殺したのだ。


「お父さんが虐めるから…お母さん、死んじゃった…」


「うるせぇ!!!黙れ!娘の分際で!!放り出すぞ!!!」


父親は母親を自殺に追い込んだことを少しも反省していないようだった。


金がなるべくかからないような最低限の葬式が終わると、私は母のいない家で父と二人で暮らし始めた。


当初父は私にとても優しかった。


それはおそらく世間の目を誤魔化すための作戦だったのだろう。


近所には母が自殺したのが父のせいだという噂が広まっており、父はしばらく大人しく過ごし、男手一つで娘を育てる理想の父を演じていた。


だが時が経つにつれて、母に向けられていた暴力性や静的欲求が私に向くようになった。


私は父に虐待され、そして性処理までさせら

れるようになった。


7歳の頃、初めて父のものを舐めさせられた。

最初にそれをやらされたときは、自分が何をされているのかわからなかった。


ただ苦いものが口の中に吐き出されて苦しかったのだけ覚えている。


無理やり犯されたのは中学に入ってすぐの頃だった。


「いい感じに育ってきたな」


そんなことを言いながら下衆な笑みを浮かべた父は、私を組み敷いてレイプした。


私は抵抗できなかった。


抵抗すれば、さらに暴力を振るわれることを知っていたからだ。


そこからは定期的に父に性的虐待を受ける日々が続いた。


私はこの世界が地獄だと思うようになった。


さっさと死にたいと思い、自殺の方法を検索したこともある。


だが、なかなか自殺の勇気が出ずにずるずると生き延びて結局高校生になった。


「如月ちゃんすっごい可愛いね!」


「シャンプーは何使ってるの?」


「おすすめのコスメは?」


「彼氏とかいるの?」


どうやら世間的に私の容姿はとても整っているらしく、同姓からはもてはやされ、異性からは頻繁に告白されたりした。


だが、私は常に同性の女の子たちと一定の距離を保っていたし、異性と付き合ったりすることもなかった。


皆、私がどんな家庭に育って、父に今までどんなことをさせられてきたのか知ったら、幻滅して離れていくに決まっている。


それが怖くて誰とも距離を縮められなかった。


連絡先を交換したり、学校で喋ったりすることはしても、絶対に放課後や休日に遊んだりすることはなかった。


この頃には父は生活保護をもらって過ごしており、金はほとんどパチンコに費やす日々になっていた。


私には放課後に遊ぶお金も、休日に来ていく可愛らしい服もなかった。


骨を抱く気はしない、と最低限の食事だけは与えられたが、それだけだ。


父はよく私に「お前は俺の性処理ペット」だと言っていた。


「…いいなあ」


学校で当たり前の幸せを享受している同級生たちが、私には眩しく感じた。


彼らは親に虐待されたり、性処理をさせられることもないのだろう。


お小遣いをもらって、好きなものを買って、友達と楽しく過ごし、異性と付き合って幸せな青春自体を送っている。


どうして私だけがこんな酷い目に遭わなくてはならないのだろう。


「どうして私だけ……こんなの、不公平じゃない…?」


次第にクラスメイトたちに抱く嫉妬の感情は憎しみに変わった。


どうして私だけがこのような辛い責苦に合わなけらばならないのか。


私が何をしたというのか。


彼らだけが何も問題なく幸せな人生を享受するのは不公平なのではないか。


「見たい…」


自分よりも不幸な人間が見たかった。


自分よりも下を見て安心したかった。


自分が世界で一番不幸な人間だと思いたくなかった。


だから……私はとある作戦を決行した。


誰か一人の男に、自分をレイプした罪を着せる作戦だ。


相手は誰でも良かったが、クラスメイトの東雲透という男が一番簡単に騙されてくれるように思えた。


東雲透は成績優秀のサッカー部に所属する男子生徒だった。


中肉中背で容姿は普通。


いつも友人に囲まれており、とても幸せそう

に見える。


異性と付き合ったことがないのは、普段の女子に対する態度を見れば一目瞭然だ。


あの男ならすぐに騙せると、私は考えた。


そして放課後に手紙で校舎の屋上に呼び出し、東雲透に告白をした。


「私…あなたみたいに真面目に一生懸命目の前のことに取り組む男の子が好きなの……だから私と付き合ってください」


「お、俺でよければ…喜んで」


予想通り、東雲透は簡単に食いついてきた。


そこから私は彼と付き合い始めた。


しばらくの間私は彼と恋人生活を続けた。


なるべく笑顔を振り撒き、東雲透のことが好きでたまらないと言った理想の彼女を演じた。


東雲透は私のことを疑ってすらいない様子だった。


そうやってしばらく恋人生活を続けたのちに、私は彼を家に誘った。


思わせぶりな態度をとると、東雲透は簡単に家までついてきた。


もはや私しか見えていない彼は、朽ち果てた私の実家の異常さはほとんど目に入っていないようだった。


私は彼を自室に連れ込み、裸になって抱きついて行為をした。


そしてそれが終わった後、私は突然悲鳴をあげて、彼にレイプされたと叫んだ。


声がよく響くように部屋の窓はわざと開けてあった。


いつもならこの時間帯に父親がパチンコに負けて帰ってくる。


「どうして…?如月?」


突然態度を変えた私に、東雲透は戸惑っているようだった。


私は呆然とする彼を放っておいてひたすら、レイプされた、犯されたと叫びまくった。


しばらくして、ドタドタと階段を駆け上がってくる音がした。


予想通り父が帰ってきたのだ。


「お父さん助けて!この人に襲われたの!」


「俺の娘に何しやがる!!!」


私が裸の状態で東雲透を指差して父に抱きつくと、父はキレて東雲透を殴り飛ばした。


そして顔を真っ赤にして東雲透に暴行を加え始めた。


私のことを愛しているから……ということではなく、おそらく自分のものがとられたことに対する怒りだろう。


東雲透は状況の理解できていなさそうな間抜けな表情のまま、ひたすら私の父に殴られていた。


私はそんな東雲透を見て、作戦がうまくいったとほくそ笑んだ。


結局その日は、父は散々東雲透を殴った後、裸のまま荷物と共に放り出した。


「おい、なんだあの男は?」


「別に」


「わざとなのか?」


「どうでもいいでしょ」


東雲透がいなくなった後、父は私にそんなことを聞いてきた。


私がわざと彼を部屋に連れ込んで犯させたことに気づいたようだ。


「まあどうでもいい。ほら、咥えろ」


「……はい」


私はその日、父に目一杯サービスして今日のことは黙っておくように頼み込んだ。


その翌日、学校に登校した私は、昨日東雲透に自宅でレイプされたと周りにいる女子たちに相談した。


真面目で人当たりが良くて可愛い、という評判で通っている私の話を女子たちは親身になって聞いてくれて、瞬く間に東雲透はレイプ魔だという噂が広まった。


「うぅ…同意してなかったのに…いきなり組み敷かれて彼に無理やり…」


私はみんなの前で泣く演技をして、同意なしに性交渉させられたと強調した。


皆、泣いている私を見て簡単に騙されてくれた。


二、三日もする頃には全校生徒に噂が広まり、東雲透は生徒たち全員から攻められるようになった。


「レイプ魔」


「犯罪者」


「最低男」


「学校くるな」


「死ね」


罵詈雑言を浴びせられ、落ち込んでいる東雲透はどう見ても私より不幸な人間に見えた。


作戦は成功だ。


自分は無実だと訴えても誰にも相手にされていない彼を見て、私は密かにほくそ笑んだ。


「ふふふ…うふふふふ…」


笑い声を上げながら放課後、家までの道のりを歩く。


ここのところ、学校に行くのが楽しい。


登校して、毎日私より不幸な東雲透を見るのが心底楽しみだ。


噂によれば、彼は部活でも犯罪者扱いを受けていじめられているらしい。


学校のインターネット掲示板も彼の悪口で溢れていると聞いた。


幸せそうだった彼の人生を完璧に破壊することに私は成功したのだ。


彼は今や、間違いなく私より下の人間だった。


このまま引きこもりになるか、自殺するか、それとも退学するか、どうなるのかはわからないが知ったことではない。


出来ればなるべく学校にはきて不幸な姿を私に見せてほしいと思っている。


数名、彼を庇う友人もいるようだが、最終的には彼から離れていくだろう。


もう東雲透がレイプ魔だという噂は、学校内において完全な事実となっていた。


私が日々泣く演技を繰り返したことで、生徒たちは皆、証拠もないのに東雲透がレイプ魔であると心の底から信じるようになった。


「馬鹿ばかりね……次は誰にしようかしら…」


東雲透が自殺したり退学したりして目の前からいなくなったら、次に不幸になってもらう人間を選ぼう。


そして東雲透と同じように、私の容姿と体を最大限利用して、私より不幸な人間に落としてやる。


「お、帰ったか」


「…」


自宅の扉を開けると、そこには父親が待ち構えていた。


どうやら今日は早くギャンブルに負けたらしい。


下衆な笑みを浮かべてズボンを下ろした。


「ほら、抜いてくれや」


「…はい」


この前のことがある手前、父には大きく出られない。


私は大人しく、いつものように父のものを咥える。


「おおお…気持ちい…」


ドアは開きっぱなしだったが父は気にしていないようだった。


咥える私を見下ろして恍惚とした表情を浮かべる。


私は心を殺して、目を閉じ、父の性処理を早く終わらせるためだけに口を動かす。


「すみませーん…ちょっといいですか。近所から通報があってきたんですが、最近何かトラブルがありませんでしたか……って、何をしているんだお前らは!?」


「…え」


「…っ!?」


ふとそんな声が背後から聞こえた。


開いたドアから、一人の人物が驚いた表情でこちらを見ていた。


男は、警官の制服に身を包んでいた。

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