第5話
「大体こんなことがあったんだ…」
俺は如月に家に招かれた日に何があったかを全て、隼人と理沙の二人に話した。
如月の方から家に誘ってきたこと。
自室に招かれて裸で抱きつかれたこと。
行為が終わった後にいきなり態度が変わり、レイプされたと騒がれたこと。
その後、如月の父親が部屋にやってきて暴行を加えられたこと。
あの日にあったことを、包み隠さず、全て話した。
「なるほど……そんなことがあったのか」
話を聞き終えた隼人は難しそうに顔を顰める。
「如月さんは明らかに自分から誘ってきて裸で抱きつくなんてあからさまなことまでやってきて、行為後にいきなり態度を変えたのか……それがその日にあったこと全部で間違いないか、透」
「ああ…大体そんな感じだ」
俺の話を短くようやくした隼人に俺は頷いた。
隼人はさらに表情を顰めて考え込む。
「今の透の話を聞く限り、別に行為自体に満足がいかなかったとか、そう言うことじゃなさそうだな……如月さんは透が父親に暴行を受けている間、笑っていたんだろ?」
「ああ」
「だとしたら……最初から透を嵌めるつもりで家に招いたんじゃないか?」
「最初から嵌めるつもりで…?一体なんのために?」
「さあ。わからん。何か過去に如月さんに恨まれるようなこと、したか?透」
「まさか……告白されるまでろくに喋ったこともない」
「そうだよな……俺たち、お前たちが付き合い出す前はほとんど三人で一緒にいたもんな……うーん…如月がお前を貶めた理由はなんなんだ?」
「俺もわからない……如月がなんでいきなり態度を豹変させたのか、本当に心当たりがないんだ…」
俺も隼人も考え込む。
一体なぜ如月は急にあの時レイプされたなどと言いだしたのか。
それまで俺たちはなんのトラブルもない良好な関係だったはずだ。
過去に如月と関わって恨まれるような事件があったわけでもない。
俺からしたら、本当に突発的に、如月が態度を豹変させて俺を陥れたと、そう言う状態なのだ。
「理沙はどう思う?同じ女子の立場からして、如月の心境の変化に何か心当たりはあるか?」
どんなに考えても如月の行動の原理がわからなかったので、隼人が理沙に水を向けた。
俺の話を聞いてから何やらずっと俯いて黙り込んでいた理沙が顔を上げる。
その頬がわずかに赤く色づいていた。
「こここ、行為って要はその……」
「ん?」
「透……し、したの…最後まで……如月さんと……」
「あ、う、うん…おう…」
「裸、見たんだ……如月さんの……それで、自分でも脱いで…したんだ……」
「う…そ、そりゃまあ…向こうが脱いで…抱きついてきたから…俺も男だし…」
そう言われるとなんだか恥ずかしくなってくる。
俺が誤魔化すように頭をかいていると、突然理沙が手を伸ばして俺の脇腹をつねってきた。
「と、透のエッチ……お猿さん…」
「いたたたた!?理沙!?何すんだよ!?」
ぎゅっとつねられて俺は悲鳴をあげる。
慌てて理沙をみるが、理沙は俺と目が合うとふっと逸らして顔を背けてしまった。
その頬は不満げにぷくりと膨らんでいる。
「…はぁ。やれやれ」
「ん?なんだよ、その目は」
「別に」
「…?」
そんな俺と理沙のやりとりを見て、隼人は「しょうがねぇなぁ、こいつらは」みたいなちょっと呆れたような表情を浮かべていた。
「おい、いいかげん話を戻そう」
なんだか気まずい空気が流れ出して無言の時間が生まれる。
俺が何か言うべきかと口を開きかけた時、隼人が先に静寂を破った。
「とりあえず透の話を聞いた感じじゃ、完全に如月が悪いな。多分あいつはなんらかの理由があって、透を嵌めたんだ。別に心変わりしたとかそう言うことじゃなくて、多分最初っから透に濡れ衣を着させて貶めるつもりだったんだと思う」
「それじゃあ……告白してきたのも…?」
「その可能性が高い」
隼人が頷いた。
なんとなくわかっていたことだが俺は改めて隼人に念を押されてショックを受ける。
「如月は最初っから透のことが好きじゃなかった。お前を嵌めるために、付き合いだした可能性が高い」
「やっぱり…そうか…」
おかしいと思ったのだ。
如月みたいな美少女がいきなり俺に告白してくるなんて。
俺と如月はそれまでほとんどと言っていいほど関わりがなかった。
俺は別段隼人と違って、喋ってもない女子に惚れられるほど容姿は整っていないし、運動神経も良くはない。
今から考えてみるとそんな俺に、校内のミスコンでも一位に選ばれるような如月がいきなり告白してきたのはやっぱり違和感がある。
如月は、俺が勉強やスポーツに真面目に取り組む姿が好きだといっていたが、あれも告白に説得力を持たせるための嘘だったと言うことだろう。
「なぜ透が選ばれたのかはわからない。誰もでよかったのかもしれないし、透じゃなきゃいけない理由があったのかもしれない。それも……これから突き止めていけばいいと思う」
隼人が俺の肩をポンと叩いていった。
「一緒に戦って行こうぜ、透。俺、親友のお前がこのまま汚名を被ったままみんなに酷いやつだと思われてる状況が見過ごせない。絶対に如月がお前にしたことを他の生徒たちに知らしめてやろうぜ。そのためだったらなんでも協力するよ」
「私も!透に最後まで味方する!何があっても…!だから透。落ち込まないで…?」
隼人に追随して理沙までそんなことを言ってくれる。
クラスメイトや、家族でさえも俺の話に耳を傾けてくれず、犯罪者扱いしてきたのに、この二人は俺の話を聞いて、信じてくれた。
ずっと曇りだった空に、わずかな晴れ間が見えてきたような気がした。
「ありがとな二人とも。お前らがそう言ってくれて本当に救われた気分だ」
俺は頼もしい二人の親友に、心からのお礼を言ったのだった。
= = = = = = = = = =
隼人と理沙の幼馴染二人組が、何があっても俺の味方をしてくれると誓ってくれたおかげで、俺の心は少し軽くなった。
けれど未だに、如月が俺に濡れ衣を着せたことを証明するための証拠は見つかっていない。
一度浸透してしまったイメージや噂を挽回す
るのは至難の業だ。
早く状況を打開しないと、最悪俺が退学になってしまうこともあり得るかもしれない。
「はぁ…部活行きたくねぇなぁ…」
放課後。
逃げるようにして教室を後にした俺は、部活へと向かって歩いていた。
永遠のように感じる学校での授業時間が終わっても、放課後には部活というイベントが待っている。
もちろん、俺の噂は部活仲間や顧問にまで浸透しており、俺は部活内においても腫れ物のように扱われている。
俺はサッカー部に所属しているのだが、誰も俺とパス練のペアを組んでくれないし、ゲームでは俺だけめちゃくちゃスライディングされたりして削られる。
マネージャーは俺にだけ水や軽食を用意してくれなくなったし、顧問もメンバーたちも俺が話しかけても全シカトだ。
「うわ…まただ…」
靴箱のところで上履きから靴に履き替えようとする。
靴の中を確認すると、やはりというか誰かが入れた画鋲がたくさん入っていた。
ここ最近はずっとこんな感じだ。
おかげで俺は靴箱を開けたり、自分の席に座る際には必ず画鋲がないか確認する癖がついてしまった。
「はぁ…」
ため息を吐いて画鋲を捨てる。
上履きから靴に履き替えて、俺は部室棟へと向かった。
「うわ……東雲だ…」
「犯罪者がいるぞ…」
「レイプ魔だ…」
「キモすぎ…次は他の人を狙ってるのかな…?」
「なんであんなのが野放しにされてるの…?」
「如月先輩もさっさと被害届出したらいいのに…」
「あんなやつ、刑務所に入って一生出てくんなよ…」
部室に向かうまでの道すがらでももちろん俺は悪口を浴びせられる。
すでに俺の噂と一緒に俺の顔まで全校生徒に広まっているらしく、学校の掲示板も現在は俺の悪口や尾鰭のついた噂で埋め尽くされているらしい。
怖いので見ていないが、多分相当ひどいことが書かれているのだろう。
「…っ」
口々に囁かれる悪口から逃げるようにして俺は部室に向かった。
部室棟へ入ると、ようやく生徒の姿もまばらになり、俺への悪口も聞こえなくなってきた。
「はぁ…」
俺は安堵の息を吐き、部室へと入る。
「は…?」
自分のロッカーを開けようとしたところで、俺は思わずそんな声を漏らし、呆然と立ち尽くしてしまう。
俺のロッカーは、ドアが破壊され、たくさんの落書きがされていた。
「死ね」
「犯罪者」
「消えろ」
「レイプ魔」
「捕まれ」
などと言った文字が、ロッカーの中に赤いペンキでたくさん書き殴られていた。
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