鍛冶屋の里

「着いたのよね。ここが【剣】の発祥地、エフエフの村なのよね」


 そこは、切り立った岩壁に囲まれた、もののけが出て来そうなタタラ場でした。

 製鉄作業でタタラを踏む、ふんどし姿のスゥィートな男達の流す汗! それは、 まるでダイアモンドッ! スゥィート展ダイアモンドと、昔CMで観た気がします!!

 

「よく来なすった、コヅエちゃん。こんなに大きくなったんじゃな。まあ、ワシのことは覚えておらんじゃろうがの」

 そう声を掛けて来たのは、作業服に身を包んだ初老の男性でした。


「こんにちはですよね。あなたが、父のご友人『多田たた 利我身りがみ』工場長ですよね? 案内頂けるとの事で、感謝しますよね』

 コヅエちゃんが頭を下げる仕草に、魔砲少女達も合わせて頭を垂れます。

 まあ! ハオちゃんに至っては、土下座です。なんと奥ゆかしいヒロインなのでしょう!


「くんくん、ここの土は懐かしい香りがするんだよ」

 土下座ではありません! 土の匂いを嗅いでいます!

 その様子に感銘を受けた、多田工場長は「なん……だと?! 変わったお友達…じゃの?」と、頬の汗が伝いました。


「工場長。早速ですが、例の銅像を見せてほしいのよね。ご案内頂きたいのよね」

 コヅエちゃんの問い掛けに工場長は頷きますが、顔色が優れませんね? これは何かトラブってると予想されます。

「そうじゃの。さあ、こっちじゃ」と、笑顔で手招きしますが、その足取りは重いものでした。


 まもなく、一棟のタタラ(製鉄所)に到着すると、中から叫び声が漏れ出ていました。

『いやじゃぁ!絶対、嫌なんじゃぁああ!』

 何事かと、魔砲少女達とコヅエちゃんは、駆け込みます。

 そこで目にした光景とは……。


『じにだくなぃぃいい!! ワシは嫌じゃぁ!!』

 なんと! 銅像がジタバタしています!

これは伝説に聞く『スーパーのお菓子売り場でジタバタ&背中で床掃除キッズ』の大人バージョンではありませんか!


「お久しぶりですわね! 校長像ですわ」

 感動の再会に涙はいりません。メオちゃんは赤い首飾りを握り、変身準備は万端です!


『お主、魔砲少女ではないかぁ! よくも騙したなぁ!!』

 銅像は数人の男に押さえ込まれていました。あとわずかで溶鉱炉に落とせそうです!

 さあ、そっと背中を押して踏み出す勇気を出させてあげましょう。


 そんな感動の別れを演出する最中でした。

建屋内には場違いな機械の声が。

『ヤハリ…… 着いてキテ正解だったナァ。オイラはストーカーのゴウヨクロボ。ハンムラビ様に報告ダァ』


 そんなバカな! 黙っていれば見つからなかったのに、わざわざ自己主張するなんて!

 これが、ロボットでも承認欲求が過ぎれば身を滅ぼすというSFにありそうな設定です!


『おおおおおお!ハオよ。変身じゃぁ』

 これには、ハオちゃんを日夜ストーキングしている髪留めも怒り心頭です。


「ハオちゃん&メオちゃん、変身だよ!」

 タタラ場の中に光が溢れます。さあ、今日の魔砲少女の華麗な変身姿はなんでしょう?


「ハオちゃんはセミだよ」

「メオは木ですわ」

 素敵ッ!! このキャスティングには、オスカー俳優も嫉妬Shit!せざるを得ません!

 ですが…… ハオちゃんゼミはメオちゃんの木からポトリと落ちると、仰向けになって微動だにしていません! これは変身失敗なのでしょうか?! 寿命が尽きる寸前の様です!


『蝉ダッテ? クフフ、瀕死じゃナイカ? オイラでも勝てそうだナァ。勝負ダァ、魔法少女』

 ハオちゃんに、ガチャンコガチャンコと歩み寄るゴウヨク。

 ハオちゃん蝉を捕まえようと、手を伸ばした時でした。


「ジジジッッ! だよ」

 これはッ?! 蝉が最後に見せる魂の咆哮! 人はこの現象をセミファイナルと呼びます!

 ゴウヨクも驚きのあまり、その場から跳ね退きました。


『び、ビビったぁ! って、背中に硬いモノが……? なんダァ?』

 なんということでしょう。ゴウヨクの背には、校長像が立ち塞がっていたのです。

 校長像は怒りの表情を浮かべ、ゴウヨクを羽交締めにしました。


『我が校の生徒をストーカーするなど言語道断! 貴様には地獄すら生ぬるいッッ!』

 そういうと、校長像はゴウヨクと共に後退りを始めました。

 え?! その先には真っ赤な溶鉱炉が!


『ナニをする!オイラを離セェ!』

ゴウヨクは、この先に待ち受ける展開を悟り、ロボットのくせに絶叫します。


「校長像! あなた、まさかですわッ?!」

メオちゃんは声を張り上げますが、地中深く張り巡らされた根っこのせいで動けません!

 更には、ハオちゃんも瀕死の状況!

二人は校長像を見送る事しか出来なかったのです。


『我が校の生徒達よ。わんぱくでもいい、たくましく育つのだぞ!』

 校長像は魔砲少女達に微笑みかけると、ゴウヨクロボと共に溶鉱炉に落ちてゆきました。

「校長像!! アナタこそ、真の聖職者でしたわッ!!」

 メオちゃんの声に、校長像は沸き立つ溶鋼ようこうに沈みゆく中、サムズアップで応えます。

 彼は生徒の危機に直面する事で思い出したのでしょう。


 教師を目指した当初の熱い思いを。


 生徒に対する愛情を。


 人は生きていく中で楽な方に流れがちです。

いつしか、自分の保身と怠惰に走りがちですが、強く抱いた想いは呼び覚まされ、過ちに気づけるのも人の素晴らしいところです。


『アイルビー…バック』


 これが、校長像が最後に残した言葉。

彼は、【剣】に転生する事を受け入れたのです。



            –––– つづく。

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