勇者

 銅像との感動の別れから一晩経ちました。


 魔砲少女とコズエちゃんの目の下にクマが出来ていたのは、銅像の尊い犠牲への悲しみか、タタラ場で夜通し【剣】を叩き上げる轟音による寝不足かは皆様の想像に任せます。


「やっぱり二人が羨ましいのよね。ウチだって戦いたいのよね」

 昨日、空気と化していたコズエちゃんは悔しそうに下唇を噛んでいました。

 しかし、これ以上ハオちゃんの立場を揺るがす存在は不要です。 パンピーはおとなしくしていましょう!


「ウチも、変身できれば……」


「コズエちゃんは欲望の力があるんだよ。何か媒体があれば、きっと変身出来るんだよ!」

 おっと、ここでハオちゃんの温かい言葉が。埴輪の半分は優しさで出来ていると言われますが、望みのない優しさは残酷な副作用がありますので、容量用法を守って正しくお使いください。


 そんな熱血展開の中、ハオちゃん達の部屋に駆け込んできたのは、多田たた工場長でした。

「みんな、【剣】が完成したぞい!」


 さあ、これで三種の神器も二つ目です。

魔砲少女達は工場長に続き現場に急行します。

 そこには、祭壇の様な台に両刃の【剣】が突き刺さっていました。

 皆様が心躍る、勇者の剣を抜くイベントが勃発です!


「アッシは必ず、ハンムラビを倒すよ!」

ハオちゃんは剣に手を掛けて引き抜こうとします。

 すると!   –––– 抜けません!!

そんな馬鹿なことが?!


「ふんぬぅぅうううだよぉぉおお!!」

いけません! ハオちゃんの表情にモザイクを掛ける必要ありと、視聴者の保護者からクレームが入りそうです!!


「今日はこのくらいにしといてやるだよ」

ハオちゃんは額の汗を拭い、空に目を向けます。

 多分、出来立ての剣は熱膨張により抜けなくなっているのでしょう。


「あら? 簡単に抜けたのですわ」


 –––– やってしまいました!!

サブヒロインのメオちゃんが【剣】を引き抜いてしまったのです。


「アッシの立場がないんだよ!!」

これには、ハオちゃんが築き上げてきたスーパーヒロインの座が揺らぎます。

 俺TUEEEE 作品ならぬ、アッシYABEEEE作品の幕開けとなってしまうのでしょうか!


 まあ、いいでしょう。

あとで編集してハオちゃんが抜いた様に報道すればいいんです。

 心配ありません、某国のお偉いメディア関係者も偏向放送をやってる事ですから。


「工場長、お世話になったのね。また来るね」


「作って貰ったこの剣で、私達が必ず平和を守りますわ」


「カレーが食べたいんだよ」


 こうして、三人は鍛冶屋の里をに別れを告げました。

 メオちゃんは【剣】を鞘に納め強く握ります。

 コズエちゃんは【鏡】を大事に抱えて力強く踏み出します。


 残る神器は【勾玉】のみ。

物語は最終局面へ。ハンムラビの野望を打倒すべく、魔砲少女達は決意を新たに……。

 どこに向かえばいいんでしょう?


 取り敢えず、ハオちゃん達は古墳中学校に戻って来ました。グラウンドに降り注ぐ穏やかな陽気と、輝く学舎が彼女達の帰還を祝福している様ですね! 


 しかし……。その『声』は突如として魔砲少女達に降り掛かりました。


『魔砲少女。何故、元の姿に……。我の断罪が叶わぬというのか?』


 そんな!! このイケメンは!?


「ハンムラビ…だよ。どうして、ここにいるんだよ?」

 まさかのラスボスが出てきてしまいました! 


『ストーカーロボが情報を送ってきたのさ。 まさか、この我を封印しようと企んでいるなんて……。 今ここで、貴様らの勘違いを断罪してあげよう」


「まだ、【勾玉】がありませんわ! ハオちゃん、逃げるのですわ!」


 メオちゃんの叫びに、ハンムラビは首を横に振り『無理だよ』と、呟くと自分の分身で魔砲少女達を取り囲みました!


「やるしか、なさそうよね」

コズエちゃんは【鏡】を構えます。


 そんな中、ハオちゃんは珍しく真剣な表情でハンムラビに問いかけました。

「なんで、お前はそんなに憎しみに溢れているんだよ? お前の言う断罪ってなんなんだよ?」


 なんだかシリアスな感じになってきましたね。ここからは会話文多めでお送りします!


『埴輪ハオ、貴様は人でない。ゆえに理解が及ばないだろう。この国を覆う不条理と理不尽を。力あるものは己の罪を隠匿し、弱きものはその犠牲となるのが真実だ。だから我は真の平等を神に願った。その勧請カンジョウは届かなかったが、地中の悪魔には届いたのだろうな。我は力を得たのだ。罪には同様の罪を与える力を……。

【目には目を、歯には歯を】それこそが、社会を正す真理だとは思わないか?』


「ハンムラビ。アッシは埴輪だから解らないかもしれないんだよ。でも、メオちゃんと出逢って、コズエちゃんと仲良くなって、ヨクボウやゴウヨク達と戦って……。 気付いたんだよ。 優しさには優しさが返ってくる様に、力にはおんなじくらいの力が跳ね返ってくるんだよ。お前がしようとしている事は、ただの争いの火種。人の自由を抑圧することでしか無いんだよ!」


 ハオちゃん……。長文をよく噛まずに言えましたね。 立派です。


『埴輪如きが人を語らないでほしいな。貴様らが考えるほど、人が生きる事は甘く無い。我は、この先の未来を憂いているんだ。だから、誰かがやらないといけない事をするんだ。一般大衆が目を背けていることに」


 魔砲少女を取り囲むハンムラビは、手のひらを彼女らに向けます。

 これは、ハオちゃんが埴輪に戻された時と同じ、魔力(カンジョウ)を吸い取る行動でではありませんか!


 さあ、次回は最終話。

思いの外、長くなったこの物語も本当の終わりがやってきます。

 彼女達の最後の戦いをお見逃しなく!


          –––– つづく。



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