最終話 埴輪の見る未来

「ハオちゃん。ウチはただの人間なのよね。でも、ハンムラビの言っている事は間違ってると思うのよね。だから、ウチも戦うのよね!」

 コズエちゃんは手にした【鏡】をハンムラビに向けます。すると、ハンムラビの分身は消え去り、本体が姿を現しました。


「コズエさん、その鏡は想いの本質を曝け出すのですわ!ハンムラビ本体に向けてほしいのですわ!」


 メオちゃんは【剣】を鞘から抜くとともに、胸元の赤い首飾りを握りしめます。

『メオちゃん。終わらせよう。これが最後の変身になるように』

 首飾りからの、なんかクライマックスっぽい言葉にメオちゃんは頷きます。


 そして、「メオ、変身ですわ!」との声と同時に光に包まれました。

「メオは、巫女ですわ」

【剣】を手に神楽を舞う。その祈祷は神との対話。神聖な巫女が降臨しました。


「メオさん、任せるのね! ハンムラビ、あなたの囚われた本質を映し出してあげるのね!」

 コズエちゃんは鏡をハンムラビに向けると彼から黒いモヤが立ち登ります。

 それは、次第に鬼の様な顔へと形を変えていきました。


『おおお!ハオよ。出遅れておるぞう! 変身じゃぁ!』

 おっといけない。主役が置き去りでしたね? 

「うん。ハオちゃん、変身だよ」

ハオちゃんも髪留めに触れ、遂に変身です!

光から現れたその姿は…… ええっ?!


「ハオちゃんは埴輪だよ」

埴輪ですって?! どう言う事なの!?


 ハンムラビから現れた黒いモヤで出来た顔は、目を見開くと重苦しい空気が辺りを支配します。

 そして、それが語った『貴様は、自分が正しいと思っているのか?』と言う言葉は重々しく、魔砲少女達を襲います。


「誰だって、正しいことの定義は出来ないのだよ。だから、自分を信じる事ができる様に、人と関わって自分を見つめ直すんだよ。それが正義の芽を育てるんだよ」


 黒いモヤは呆れた様子で、『正義ほど厄介なものはない。それはただの理想論であり、人の本質とは大きな乖離があるのだ。愛だの良心など、ありもしない幻想に囚われ自分を犠牲にする行為に他ならない。つまり、人は害悪な思想に取り憑かれているのだ』と、言葉を吐き出しました。


「難しいことはわからないけど、人が人を助けたい。それでいいんじゃないかと思うんだよ。綺麗なお花は綺麗、美味いもんは美味い、自分に正直である事が正義だと思うんだよ」


『…… 成る程。よくわかった。我と貴様らの想いは交わらんという事が。この国をする邪魔はさせん。消え去るがいい!』

 鬼のような顔は大きく口を開くと、喉の奥で瘴気が渦巻きます!

 ここで吐くの? 正気じゃ無いわね!


「遂に本心を言いましたわね。 そんな考え、勧請が神に届くはずはありませんですわ! 悪しき想いよ去れ。悪•鬼•殲•滅!」

 メオちゃんは剣を振り抜くと、黒いモヤで出来た顔は散り散りになりました。が……。


『流石は神器、一瞬意識が絶たれたが思念体である我を倒す事はできんぞ』

 やはり、封印する勾玉がない以上、ハンムラビの思念は倒せそうにありません。


「ねえ、メオちゃん。 アッシと出逢えて良かったかだよ?」


「えっ?!」


 ハオちゃん? どうしたの急に?


「アッシは埴輪だよ。それはつまり、魂の器、鎮魂の道具だよ」


 ……まさ…か。


「アッシがハンムラビの思念を封印するよ。多分、ハンムラビの思念はアッシ達の魔砲の根源。それを倒す事はつまり……」


「ハオちゃんが……、元の埴輪に戻って……しまう」


 よく考えればそうです。

本作ヒロインはハンムラビの勧請(魔力)を受け、人の姿になりました。

 その元を断つという事は、メオちゃんが魔砲を使えなくなるだけでなく、ハオちゃんも『元の姿』に戻ってしまう事を何故、今まで気づかなかったのでしょう!

 何か!他に方法は無いのッ?!


「ハオちゃん! そんなの許しませんわ! 私達は、ずっと、これからも! 友達でライバルですわ!」


 メオちゃんが崩れる中、ハンムラビの思念は空気を読まず、口から闇の光線を放ちます。

「二人ともッ!しっかりするのよね! このままでは全滅しちゃうのよね!」

 コズエちゃんは鏡で、その光線を弾き二人を守ります。しかし、その衝撃で鏡がヒビ割れてしまいました。


「メオちゃん。アッシは楽しかったよ。みんなに逢えて、いろんな冒険をして。 こんな楽しい世の中を、ハンムラビに抑圧させちゃいけないんだよ」

 メオちゃんの大きな瞳からとめどなく流れる涙。それを乱暴に袖で拭うと、「ハオちゃん。私も楽しかった。 いいえ、いつになっても…また必ずアナタをハオちゃんに戻しますわ。そして、また一緒にッ!」


「期待せずに待ってるんだよ」


 メオちゃんは再び剣をハンムラビに向けました。

「ハオちゃん。合わせますわよ!」

メオちゃんの言葉に頷く埴輪のハオちゃん。

その表情は穏やかでした。


「「最終魔砲!! 分霊封印!!」」

メオちゃんの一閃がハンムラビの思念を分断します。


(アッシはハオちゃん。埴輪だよ)


ハオちゃんはそのモヤを吸い込んでいきます。


(土の中から出て見上げた空は綺麗だったよ)


全てのモヤがハオちゃんに吸収された時、


(学校に行って、みんなと過ごした時間はかけがえのない宝物だよ)


–––– この世から、全ての魔砲は失われました。


(埴輪は人柱の代わりに作られたんだよ。死んだ人が寂しくない様にって。人が人を想う優しさが詰まったアッシは、その優しさを人に返したかったんだよ。 うまくできたか…な………?)



          –––– エピローグへ

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