犯罪の匂い

 素晴〜らしい朝がきた、希〜望の朝が♪

秋晴れの名にふさわしく、雲ひとつない空は青く澄んでいました。

 突き抜ける空には平和の象徴である白い鳩が羽ばたき、鷹がそれを虎視眈々と狙っています。

 この美しき光景には、腹黒い人々も悔い改めざるを得ないでしょう。


 さて、ハオちゃんは通学路をてくてく歩いています。 朽ちたガードレールを、手に持った枝葉でガンガン叩きながらの登校。ほんと、悔しいほどに絵になりますね!!

 そんな完全無欠のヒロインの行手を、金のネックレスをしたイケイケアニキが阻んできました。


 –––– どうする?


▶︎たたかう

 にげる

 魔砲

 はなす

 見なかった事にする



「やあ、アッシはハオちゃんだよ。サインが欲しけりゃ、色紙を持ってくるんだよ」

 もうヒロインには収まらず、国民的アイドルへ登り詰めたのね! 皆さん、ハオちゃんとの握手会はどうですか? 一名様5万円でアテンドいたします!!


『違う違う、オネーちゃん。いい話があるんだけど、やってみない? キャッシュカード作るだけで5万円もらえるよ!』


 なんとッッ!! いけません、これはノルマ達成のための銀行員の勧誘…… ?


『誰でも出来る簡単なお仕事です』

『アットホームな職場です』

『10代が活躍中!』


 絶対違いますね。 この手の謳い文句は、最近よく耳にする闇バイトに違いありません!!

 ハオちゃん、平和を揺るがす悪者に容赦は不要です。 やっつけましょう!


「まかないは、カレーがいいんだよ!」

 ハオちゃ〜ん!! 騙されないで!!

このままでは、埴輪だけに地下アイドル詐欺事件が勃発! 警視庁には捜査本部が設立されてしまいます!

 そんな、ハオちゃんが道を踏み外す一歩手前で、埴輪の髪留めがファインプレーを繰り出しました。


『おおおお……、ハオよ。他者を騙して金を巻き上げるゴウヨクの気配がするぞぉ!』


「カレーは? 嘘って事? 許さんのだよぉ!」

ハオちゃんは髪留めに触れ、光を纏います。

今日のトキメキ大変身は?!


「ハオちゃんは、映画監督だよ」

 巨匠が舞い降りました!! 昭和なグラサンと手にしたメガホンが、いかにもな感じを演出します!


『なんだテメェ。 キャッシュカード作んのか。 作らんのか。 どっちなんだい』


「はい、カットォ! 気持ちがこもっていないんだよ。もう一回!!」


『お、おう。なんだテメェ! キャッシュカード作んのか? 作らんのか? どっちなんだい?』


「はい、カットォ! どっちなんだい!を強調してもう一回!」


『……なんだ、テメェ。……監督、ごめんなさいッッ! 私、もう耐えられません!シクシク』


 なんと、ゴウヨクなアニキは泣き始めました。

おそらく、罪を重ねるうちに良心が耐えられなくなったのでしょう。


「何を甘えてるんだよ! お前には役者としてのプライドがないのかだよ? アッシはなぁ、お前の可能性を信じてるんだよ」

 ここで、強烈な魔砲がゴウヨクの心に炸裂しました。 これにはゴウヨクなアニキもたまらず、『監督!! 私…… 頑張りますッ!』と、涙を拭いて立ち上がりました。


「ふっ、アッシの目に狂いはなかったよ。さあ!あの夕日の下にある刑務所に向かって走るんだよ!」

 まあ、時刻的に夕日じゃなく朝日なんですが、細かい事は気にしないでおきましょう。


 こうして、ゴウヨクのアニキは自らの実力で、実刑判決を勝ち取りました。


「悪・霊・退・散!!」

 ハオちゃんは空を仰ぎ、平和な未来に想いを馳せます。そして、近い未来に遅刻する現実を知りながらも、再び歩み始めました。


 そんなハオちゃんの姿を背後から見つめる者がいました。

 その者は、不吉な笑みを浮かべて呟きます。


『罪人、埴輪ハオ。 土に還る時が来たのだ』と。


          –––– つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る