大人の怪談

 ハオちゃん達が訪れていたのは、ある旧武家屋敷でした。


「大きな門ですわね……。取り囲む塀を見る限り、相当な広さがありますわ」

 二人に立ち塞がる四脚門は、ここが身分の高い武士の屋敷だった事を物語ります。

 相当な年月が経ったにも関わらず、手入れの行き届いた門扉は、今も人が住んでいる事実を告げていました。


 ハオちゃん達が呆然と立ち尽くす中、突然として木の軋む音とともに、門が開いていきました。


「ひっ、ひっ、ひっ。よく来たねぇ、魔砲少女のお二人さん。学校から連絡を受けているよ。に探し物があるんだってぇ?」

 まあ、笑顔が素敵なお婆さんが出迎えてくれました。 流行を先取りした、真っ白なお団子ヘアーもキュートですね。


「やあ、アッシはハオちゃんだよ! 捜査協力に感謝するんだよ」


「別に事件ではありませんわ。私は女庭メオと申しますわ。お婆さん、有難う御座いますわ」


 二人の挨拶に、老婆は『フヒヒ……』と、ほがらかに微笑みます。

「お二人さん、疲れたじゃろう? まあ、少し休みなされ。 あの『蔵』の事を話してあげよう……。フヒッ、フヒッ」


 二人は老婆の後に続き、母屋に向かって石畳の上を歩きます。

 大きな敷地には鬱蒼と茂る木々、人工池には鯉が群れを成し水面で口をパクパクさせています。

 まるで二人を熱烈に歓迎しているようですね!


 母屋で座敷に通されたハオちゃんたち。

老婆が用意してくれたのは、おはぎと玄米茶というゴールデンコンビ的おもてなしでした。


「もぐぅ!お婆さん、美味しいんだよ!」

あらあら、ハオちゃんってば、ほっぺがが破裂しそうで可愛いですね。

 その様子を眺めていた老婆は、ニタニタと満遍の笑みを浮かべながら話し始めました。


「この家にはのぅ、先祖代々受け継いできた宝があるんじゃ。 それがお前さん達の探しとる鏡……、人の想いを映すという『ラーノ鏡』なんじゃよ」


 危ないッッ!! 巨大企業から鉄槌が下される予感がします! 不穏な空気が漂い始めるなか、お婆さんは、表情を曇らせ言葉を続けました。


「じゃが、当家の一人娘である『コヅエ』が、あろう事か蔵から持ち出してしまったんじゃ」


「じゃあ、今、その鏡は此処ここには無いって事ですわ?」

 メオちゃんの問いに老婆は首を横に振ります。

「いいや、確かに蔵にあるんじゃ…… 今も…コヅエと共に……」


 『ギャァギャァ』とカラス達が不気味演出を盛り上げる中、「コヅエ…ちゃん?」と、ハオちゃんは首を傾げています。 何か思い当たる事があるんでしょうか?


 老婆は、お茶をズズッと啜ると続けました。

「きっと、祟りだったんじゃろう。 安置していた鏡を持ち出した事で…… コヅエは石になって……しもうたんじゃ。 今は鏡と共に、蔵で眠っとる……」

 老婆の瞳から涙が滴り落ちます。

そして、何故かハオちゃんも滝の様な汗が滴り落ちています。

 –––– 怖いのね!ハオちゃん!

 魔砲少女が恐怖に慄く姿もオツなものですね!


「そんな事があったのですわね。お婆さん、心中お察ししますわ」

 メオちゃんの優しさに、お婆さんはニチャアと、頬を緩めます。


「そのあとじゃ、石化したコヅエを女神様と讃えるキモいおっさん達が現れてのぅ、蔵に集まって出て来ないんじゃ、いつしか『鬼の棲家とする場所』と呼ばれるようになり、略して『鬼家場蔵キャバクラ』と、今では皆から恐れられるようになってしもうた…… 悪いことは言わん。帰りんしゃい」


 –––– これが鬼家場蔵の真実なのね!

想像を絶する恐怖が魔砲少女達に襲い掛かります!


「お婆さん、私達は魔砲少女ですわ! 娘さんを必ず助けますわ」

 メオちゃんは拳を握りしめ、立ち上がります……が、ハオちゃんはガクブルしています。


「ハオちゃん? どうしたのですわ?」

不思議そうに声を掛けるメオちゃんに、ハオちゃんは衝撃の言葉を口にしました。


「メオ…ちゃん。 もしかしたら、原因はアッシにあるのかもしれないんだよ…… コヅエちゃんは、魔少女を夢見ていた……友達だよ」


          –––– つづく。

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