第34話 黒森伊万里

じー


正直、食べ辛い。

イートスペースに来て

伊万里の弁当を食べようとしたが

じっとこっちを見てくる伊万里に

恥ずかしくなる。


「食べないんですか?」

平坦な声で食べるように進めてくる伊万里。

ちょっと怖いよ。


伊万里の弁当は

唐揚げや卵焼きにアスパラベーコン巻き

など男子向けの弁当になっていて

ご飯の部分は

桜でんぶはかき混ぜたようになっていた。

そこだけ、なぜか見栄えが悪い。


とりあえず、卵焼きから食べてみる。

「ど、どうですか?」

伊万里が緊張しながら聞いてくる。


「おいしいよ。」

「あ…あっ」

なにかを言おうとして止まる伊万里。


「どうした?」

「あ、当たり前ですよ。

伊万里が作ったんですから

で、でも嬉しいです。」

そうして、食べ進めていると

伊万里が聞いてくる。


「でも、せんぱい

いつも食べてるキラ先輩の弁当と比べる

と伊万里のはいまいちですよね…

あと…あの柊さんとかいう人のとかに作って貰ってそうですし。」

「なんで伊万里の弁当と

キラさんの弁当を比べる必要があるんだ?

それに、

伊万里の弁当は負けないくらいおいしいよ。」

「…っ」

顔を反らす伊万里。


「あと、柊さんの弁当は食べたことないよ。」

「そうなんですか?

 あんなに仲良さそうなのに」

「柊さんは友達だよ。」

「そうだったんですか…だったら」

少し多めだったのもあり時間を使って食べ終える。

「ごちそうさま。伊万里」

「お粗末様です。」

「おいしかったよ。ありがとうね」

「えへへ。」

はにかむように伊万里は笑っている。


お昼を食べたあと、

またアトラクションをめぐり楽しむ。

あっという間に時間が過ぎていき、夕方になる。


「せんぱい。最後にあれ乗りませんか?」

そう言って伊万里が指を指したのは観覧車だった。

「夕日に照らされた町をみるのが楽しいんですよ~私の中でもこの時間がイチオシです!」

そう言って列に並ぶ。

待っていると手に違和感を感じる。


「乗るまで手を繋ぎませんか?」

「いいよ。」

待っている間、何が楽しいのか分からないが

僕の手を握ったり放したり、ぐにぐにしたりして遊んでいる。

ちょっとくすぐったい気もする。


「次のお客様ーー」


呼ばれたので向かっていく。


「手を繋いでるなんて初々しいですね。

観覧車一周旅を楽しんでくださいね。」

業務員さんめっちゃ恥ずかしいですよ。

伊万里の方をみると俯いているが顔を真っ赤にしているようにも見える。


「どんどん上がっていきますね。」

「そうだな」

お互いに対面となり座るが

さっきの業務員の言葉を少し意識してお互い素っ気ない会話になる。


「せんぱいと会ってまだ一週間ぐらいなんですよね。」

「そうだね。」

「まさか、一緒に遊ぶ関係になるなんて思っていなかったですよ。」

ほんとにそうだ。

よくこんな関係になったと思う。


適当に生きることしか考えていなかった僕が…



「伊万里に謝りたいことがあるんだ。」

「なんですか?

 特に謝られることはないですよ。」

「初めて会ったとき君のこと疑っていた。

僕を騙すために近づいていると思ってた。」

「今でも思っているんですか…」

彼女の方を見るが彼女は顔をあげない。

俺に失望しているのかもしれない。


「本当にごめん。

謝っても許されることじゃないと思う。

だけど、君と遊んで君のことを知っていって

すぐに気がついた。

君はそんな人間じゃないと…

だから、本当にごめん。」

彼女はゆっくり顔を上げた。

その表情は…


笑っていた。


「よかった~今も勘違いされてなくて

勘違いしてたら嫌々今日も来てることじゃないですか!」

「いや、本当に楽しみにしてきていたよ。

それより気にしないの?」

「そうなんですか!ならよかったです。

それに私、せんぱいに疑われてたこと分かってましたから。」

気づかれていたのか…


「え?気づいてたのになんで?」

「そんなのせんぱいと仲良くなりたかったからです。」

「仲良く?」

どういうことかわからない。

「私の直感がせんぱいとなかよくなりたい。

と思ったんです。

今まで友達を作ろうと思わなかった私が初めて。」

「そうだったのか…」

「だから、いいんです。

私はせんぱいに信じて貰えて嬉しかったですから。」

「本当に…ありがとう…。

 伊万里。」

「どういたしまして。せんぱい!」

彼女の笑顔に僕は救われたような気がした。


ーーーーーーーーーーーーーー



そうしている間に、ゴンドラは頂点に向けて進んだ。


二人の男女はゴンドラの中で大人しく座っている。


雰囲気に呑まれたのか会話すらしていない。


ようやくゴンドラが

ちょうど真ん中に着いたとき


「あなたに伝えたいことがあります。」

一人が口を開いた。


「あなたのことを知ってから、知れば知るほど惹かれていく自分がいました。

自分に自信がなくあなたの周りには人が集まるので諦めようともしました。

だけど、諦められないから伝えます。」



ーーーーーーーーーーーーーー

午後6時にも一本あげます。



実質、次回が最終話となります。











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