第3話白狼の使い手

 黒い雨合羽を着た男はこちらに銃口を向けて近づいてきた。逃げようとしたが足がすくんで動けない。終わりだ。せっかく救ってもらった命なのに、もう終わるんだ。ゆっくりと目をつむってそう覚悟した、そのとき成瀬先生が俺の肩にやさしく手を置いた。

「君なら大丈夫。月を見てごらん。」

そういわれて月を見上げた。満月だった。

息が荒くなる。体の内側から力がこみあげてくる。

「やはり。これじゃあ君一人でねずみごとき倒せるなあ。私の手なんていらないね。」

赤く光る眼。鋭い爪。疼く牙。目の前の獲物を捕らえることしか頭にない。まずは思いっきりひっかいて体勢を崩させる。男はその場に倒れ、銃を手放した。そして噛みついてとどめを刺す。

「そこまでそこまで。よく頑張ったな。」

そういわれて我に返る。気が付くと人間に戻っていた。

「君は白狼の使い手だね。君がここに連れてこられたとき、何か飲まされただろう。それのおかげというか、それのせいというか、能力が付いたんだよ。我々の敵である奴らが目の前に現れた時、月を見ればきっと能力が発動する。」

「成瀬先生も何かの使い手ってこと?」

「それはまだ秘密にしておこうか。」

初仕事は一件落着。それにしても、敵だったりこの能力だったり、謎がたくさんある。それに俺は人を殺した、罪にはならないのだろうか。心配だがいったんつかれたし眠りにでもつこう。


彼岸花の咲く丘、またあの少女を見た。太陽と重なる少女は、この前のようには微笑んでくれなかった。

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