第二話
玄武国王族の越家の男子は代々「蒼」の一字を継承する。しかし何らかの理由で一族を追放されるときには越姓を剥奪され、「蒼」に通じる「藏」の字を新たな姓として賜るのだ。
藏真は、夜が明けてもなお床の前に額ずいたまま微動だにしない越姓の青年——第一王子の
否、彼が訴えた内容に即するなら元王子といったところか。堂々たる一国の王子、それも将来玉座を約束されている身でなぜ墨島に乗り込んだのかと問われた蒼仁が答えたのは、第二王子の
「父上は弑され、側近や忠臣、女官や宦官に至るまでが皆殺しにされました。私は世話役の機転で逃れることができたのですが……」
「それがなぜ墨島の首領を頼ることになるのだと聞いている。俺の問いに答えろ」
ぎろりと睨みをくれてやると、蒼仁は途端に萎縮して言葉を失う。しかし蒼仁は、見かけ倒しかとため息をついた藏真に「それはあなたが私の伯父だからです」とはっきり答えてみせた。
「それに
そう言った蒼仁に、しかし
「俺を頼ってきたというが、自分の親がまさしく俺をここにぶち込んだ張本人だと忘れたわけではないだろうな?」
「もちろんです。ですが、」
「ならば話は終わりだ。出ていけ」
藏真は冷たく遮ると、岩の寝台に再び身を投げ出した。目を丸くする蒼仁を連れ出すよう手下に合図を送ると、たちまち囲まれた蒼仁は「そんな、待ってください!」と悲痛な声で叫んだ。
「伯父上、私は父上が何をしたかは重々承知の上で参ったのです! どうか話だけでも聞いてください!」
「連れ出せ。耳障りだ」
藏真は目元を歪めたままぎろりと手下を睨む。しかし蒼仁は両側から腕を掴まれ、引きずられかけてもなお、細い体をしつこくよじって包囲を逃れようとした。
「しつこいぞ、ガキ!」
手下の一人が声を荒げ、蒼仁を地面に投げ飛ばす。蒼仁は身を起こすとその場に土下座して藏真に助けを乞い、藏真が手下を引き上げさせてもなおその場を動かず、なんとそのまま一夜を明かしたのだった。
「いつまでやる気だ」
呆れ半分に声をかけると、
「あなたが話を聞いてくださるまでです」
とくぐもった声が返ってくる。
「それほどまでに俺の助けが欲しいか?」
「もちろんです」
これでは堂々巡りだと、藏真はあからさまにため息をついた。一国の王から罪人の王に成り果てた自分にここまで期待を寄せる者がいたのかと思うと逆に笑えてさえくる。
「それに、私はただ自分が正当な地位を取り戻すためにあなたを利用しようと思っているのではありません。あなたが無償で仇討ちを手伝ってくださるなど、そんな甘い考えでここに来たのではありません」
その言葉に藏真はぴくりと眉を跳ね上げた。同時に違う反応があったことを悟ったのか、蒼仁は恐る恐る顔を上げて藏真を見る。その目には、今までの言葉にたがわぬ決意と覚悟が光となって宿っていた。
「私は父上が真っ当な方法で王座に着いたのではないと知っていますが、一方で父上から受けた恩を無下にはできません。父上が
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