婚約解消令嬢、ミージェ=カストル
「という、具合で、僕は何度も気持ちを伝えたつもりなのですが、彼女は、『そう言う言葉は本物のミージェ様に書けて上げてください』の一点張りでね。僕の想いを伝えるには、ミージェ殿が復活してからじゃないと、叶わない、そう思うようになっていったって言うわけさ」
私は二度目の人生の大半を過ごしていた、自室のベッドに横たわりながら、婚約者の見舞いという名目で訪れた、アルゴー君に、私が死んでからの約十年間のミージェちゃんの軌跡を聞いていた。
筈なのに、なぜか最初から最後まで、アルゴー君のコイバナになっているんだけど!?
と、心の中で、ツッコミを入れながら、微笑した。
「あはは。そうなんですね。殿下。そうですか、ミージェちゃんに惹かれちゃいましたか」
「ん、そうなんだ!」
爽やかな笑みで、言い切るアルゴー君。ん、良い顔。
「それにしても、驚きました」
「なにがだい? ミージェ殿」
続きを促すアルゴー君に、私が説明しようと口を開き書けたが、アルゴー君に、「あと、僕には敬語はいらないよ」と、付け加えられ、私は、一度口を閉じ、言葉を組み立て直した。
「アルゴー君は、私が未来の知識……いや、この場合は可能性の知識かな? 可能性の知識を持っているのは知っているよね?」
その話の切り出しに、アルゴー君の顔が一瞬、ひきつった。
なるほど。アルゴー君が私のところへ来たのは、それが理由か。今はその前振りって言うわけね。その理由はおそらく……。
「うん。ミージェ殿は、そう言う知識を持っているって、彼女から聞いているよ」
「そっか。じゃぁ、言うけど、アルゴー君。私は、何もしなければ、君とララちゃんが付き合うんじゃないかな? と思っていたし、ミージェちゃんにも、そのように伝えていたんだ」
「な!?」
驚き声を上げたのは、アルゴー君の付き添いで来ているレオン君だった。
どうやら、この世界では、ララちゃんはレオン君と付き合っているらしい。
今の一度まで、喋ってなかったレオン君は、罰が悪そうに、頭をかきむしりながら、私の体調を心配してくれた。
「あー、体調大丈夫かよ?」
「ん! 呼吸も苦しくないし、心臓もちゃんと動いている。からだの痛みも感じない。魔力を全部抜かれたから、体がダルいだけで、動こうとしたらこの通り!」
言葉の終わりに、勢い良く立ち上がって見せた。が、立ち眩みがしたので、すぐに座り、横たわる。
おそらく、明日ぐらいには、普通に生活出来るまで回復するだろう。
「そりゃ、良かったな。これで、負の魔力を全部抜いたら、体は残るが、心臓は止まります。という話じゃ、あいつやオマエが救われねぇからな」
「ん、ありがと! それにしても、驚いちゃったな」
「な、何がだよ……俺にララが惚れるなんて、ありえねぇっていうのか? そんなの俺でも分かってらぁ」
「ううん。そうじゃないの。それに、一番お似合いのカップルだと思うわ。ただ、どちらも奥手だから、何かきっかけがないと、なかなか、ね?」
私は言葉を濁したが、レオン君は思い当たる節があるらしく、「あー、そりゃ、な……」と、煮え切らない態度で、答えた。
たぶん、ミージェちゃんからララちゃんの情報を事前に仕入れたってところかな?
それをズルだと、思っているんだろうけど、レオン君のことだから、デートスポットや、渡すプレゼントの相談感覚でしか、聞いていないはず。
まったく、生真面目なんだから……。
私がそんな考えを浮かべて微笑が漏れてしまった。
「私が言いたかったのは、レオン君が、私に熱い言葉を掛けてくれたことが以外だったって、言ってるの。だって、君、とても重要なことになると、アルゴー君とあえて意見を対立させるでしょ? アルゴー君の考えが独りよがりにならないために」
「ケッ! 何を誤解したか知らないけどな、俺は今でもオマエを疑っている。事情を全て知っている俺ら四人の中で、誰かがそういう警戒をしねえと、国が終わりかねねぇからな。だが、同時にせっかく作ってくれたチャンスにすがることなく、自暴自棄になったオマエがムカついた。ただ、それだけの話だ」
「そ。やっぱり、現実はゲームとは違うのね。予想外なことがいくつも起こってるわ……」
私がそのように呟き終えると、アルゴー君が、形の良い眉を寄せ、改まった言葉となり、私に告げる。
「それでですね。私は今、名目上、ミージェ=はなカストル嬢、つまりあなたと、婚約するということになっています。ですが、私はやはり彼女のことが好きなので、婚約を……」
「良いわよ? 婚約破棄してあげる。その代わり、あの子を泣かしたらその時は、分かってるわよね?」
後半、脅迫染みた言葉と態度で、婚約破棄を受け入れた。
まぁまぁの圧をかけた筈なんだけど、アルゴー君は、さすが皇子と言うべきか、恋は盲目も言うべきか、真面目な顔で一切の淀みもなく、私に宣言したのだ。
「はい! このアルゴー=ボルックス。一人の男として、必ず彼女を幸せにすると、ちかいます」
「一人の男、として、ね」
普通、ここは家系の名に誓いを立てるほうが一般的なんだけど、アルゴー君は、今、例え王家を追われるはめになっても、あの子を幸せにすると、言いたかったんだと思う。
「よろしくね」
私が微笑むと、心地よいぐらい邪念がない透き通った返事をした後に、いよいよ本題に入って来る。
「それで、勇ましく宣言したのに、恥ずかしいんだけど、彼女の居場所を教えてくれたら、助かるんだけど……」
やっぱり、そういうこと……。
幼い頃に死別してからだから、性格が変わったと、言い聞かせてたんだけど、私がベッドで、目を覚ましたとき、ミージェちゃんの姿はなかった。
幼い頃だと、私の体調が悪化したときは、いつ苦しみ出すか、心配で一晩中付きっきりで、看病をしてくれていた。
父様や母様に聞いても、浮かない顔で、「すぐに帰ってくるわ」としか答えてくれなかった。
けど、アルゴー君のさっきの言葉でわかった。
ミージェちゃんはいなくなった。
「ええ、もちろん。と、言いたいとこだけど、私が知っている知識は、私が魔王となり、倒されるまで。それ以降は、何が起こるかわからない。それに、今の現状は私の持っている可能性の知識とは遠く離れすぎていて、あてにならないわ」
「そう、なんだね……」
明らかに落ち込むアルゴー君。おそらく、私の知識が最後の希望だったんだろう。
でも、私から言わせれば、落ち込むのはまだ早い。だって、私の話はまだ終わりじゃないんだから。
「だからね。絶対ここにいる! とは断言出来ないの……」
「つ、つまり!」
「ええ、いくつか、ここにいる確率が高いところの候補は教えられるわ」
「どこだい、それは!?」
前に体を付き出すアルゴー君に、「落ち着いて」と、私はなだめてから、とある前置きをする。
「ただ、これはあくまでも可能性であって、私が教えたところにいなかったら、私には、もうお手上げってこと。それと、今回は私の持っているところまでの知識から、そんなに時間が立ってなかったから出来たこと。つまり……」
「この先、もし何かトラブルが起こっても、ミージェ殿に聞いても、無駄って言うことだね?」
アルゴー君が真剣な顔持ちで、私の言いたかったことを、先読みして、確認してきた。
これに、静かで力強い頷きで返した。
「わかった。ミージェ殿の意見を聞かせてくれ。彼女はどこにいると思う?」
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