第33話 戦争の終結
粉塵漂う瓦礫の上に横たわる第二王子の目の前にナルミアがやってきた。第二王子は力を振り絞り薄目を開けてそれを見ると、また力無く瞼を閉じた。
ナルミアは無表情のまま問うた。
「僕を騙したの?」
ポツリポツリと雨が降り始める。第二王子は身動きもせずに、少し間を空けてから静かに答えた。
「…あぁ」
「そっか」
二人の間に沈黙が降りる。しばらくして、ナルミアが第二王子に手を差し出した。
「一緒に戻ろう。兄さんが立てるようになったら殴ってもいいかな?ある人と兄さんを殴るって約束したもんで」
ナルミアが笑った。第二王子は静かにナルミアの手を見つめていた。雨はただただ降り続け、地面に染みて消えた。
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道路に降り立ったオレの元に野獣を倒したサーラたちが駆け寄ってくる。オレは疲れで一度座り込んだ。
「やったわね。で、どうする?」
「時間がないんだ。オレの力でここにいるあっちの世界の人間を門に押し込めたら、また門にエクートをぶつけて、門を消す」
「大丈夫なの?随分と疲れているようだけど」
「問題ない。よしっ、やるぞ」
「あっ、ちょっと待って。私は戻さないでよ?こっちで漫画の続き読みたいから」
「私も残してください。しばらく前田商店に勤めます」
アントニオが笑う。オレは頷いて、両手を広げて、エクートの操作に集中した。
雨が降り始めた。
オレはエクートを操作して、門から出てきたあらゆるものを緑のオーロラで包み込み、門に押し返して行った。野獣の死体も、ノブリス王朝の兵士たちも、あの王子たちも。
そして、門を閉じる。
じゃあな、ナルミア。
それを終えるとオレは門に向かって、両手を構えてエクートの放射態勢に入った。オレの肩にサーラやアントニオが手を乗せる。遂にこの時が来たのだ。門を消して、平穏な日本へと戻る時が。
「やるぞ。力を貸してくれるか?」
「もちろん」
オレたちから緑のオーロラが噴き出していき、門に当たり弾けた。門が振動を始めて、それは地震のように地面を揺らした。陽炎のように、門はその姿を不安定にくゆらせたが、まだ消えるには至らない。
オレは焦燥を禁じ得ずに冷や汗を垂らした。おれにアントニオが笑いかける。
「心配しないでください」
アントニオの握る力が強くなったかと思うと、次々とそこに手が差し伸べられた。振り返ったオレの目の前にいたのは…。
「神崎さん、私たちもついたますから。あと、これが終わったら話したいことがあります。いいですか?」
「多江ちゃん…。今、言うことかな?それ」
「えへっ」
「まもちゃん、この借りは旅行で返してくれよ?」
「前田のオッサン…。それより、貸しの方がデカいと思うんですけど?」
「守くん、お茶飲む?」
「淑恵さん…。今は、要らないです」
手を差し伸べてくれたのは、前田商店のみんなだった。そして。
「まもちゃん。お爺ちゃんも喜んでいると思うわ」
「婆さん…」
「ニャー」
「たっ、タマも?!」
「ニャー」
みんなが来てくれた。でも、みんなにエクートはないはず。アントニオがオレの顔を読んで補足してくれた。
「膨大なエクートは、他人にエクートを与えます。神崎さんと一緒に過ごしたことで皆さんにエクートは宿っていたのです。少しずつですが。タマさんは結構な量ですけど」
「タマはいつも一緒だったからな…」
「なので、皆さんをここに来る前に車で迎えに行きました。『危ない目に遭うかも』と説明しましたが、彼らは神崎さんを心配して来てくれました」
「みんな…」
オレは自分の肩に乗る一つ一つの手の重みを噛み締めて、歯を食いしばった。
「みんな、ありがとう!もう一踏ん張りだけ頼む」
オレたちを包む緑色の靄が濃くなり、放射されているビームが太くなる。門の揺れが一層強くなり、門が壊れかけのブラウン管テレビでも見ているみたいに、輪郭の定まらない粗い姿となる。
「もう…一丁ーーーっ!」
力んだことでエクートのビームはより太くなる。門の揺れが強くなり、門が発光を始めた。そして。
門は遂にその姿を消した。
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