第32話 第二王子との死闘

 紅と緑のオーロラが空でせめぎ合い、次々に移ろう。その狭間には青白い稲妻が走り、地上にはバンッと爆発に似た打撃音が遅れて届いた。



 オレと第二王子は殴り合いをしていた。殴ればその衝撃で殴られた方が数十㍍飛んでいき、また相手の元へ飛んで行き殴り合う。それを繰り返していた。肉体はエクートで強化し、殴られた箇所はエクートで回復する。その繰り返し。



 ただ殴られる側はずっとオレなんですけど!



 シンプルに強い!

 第二王子は伊達じゃなかった。戦闘スキルが違い過ぎる。エクートはオレの方が上回っているはずなのに。戦闘スキルでそれをカバーされて、更に上を行かれている。そりゃあ、そうだ。オレは素人童貞であり、喧嘩素人なのだ。ナルミアなどの聖ノブリス王朝勢のように戦闘訓練は受けていない。


 右手を出せば、すでにそこに事前に分かっていたかのように第二王子の右手がある。


 いなされて、左手でブローを決められる。


 左手を出せば、すぐに右手がすれ違いに飛んできてカウンター。




 殴られて血を吹く度に脳裡に過ぎる。


「全ての行動が読まれている」


 本当に徐々にそんな気がしてくるのだ。



 だが、それが奴の常套手段なのだろう。そうやって、さも「すべて分かっています」という感じを出して、自分が優位であることを相手に意識付けるという手。だからこそ、そんなものに負ける訳にはいかない。オレは歯を食いしばる。



「まだだ…まだ終わらんよ!」




 オレの思考や身体能力は全てエクートで強化されている。当然、学習能力も高まっている。常人であれば何日もかかるであろう戦闘経験をこの数分で積んでいるのだ。それが徐々に芽吹き出す。



バシンっ!




 遂にオレの一撃がいなされる事なく、第二王子の腹部に…、いや、ギリギリで手のひらで受け止められたが、遂に奴がいなすことができずに"受け止めた"。

 流石に慌てたか…?オレはチラリと奴の顔を見た。



 …奴は無表情のままだった。




 あぁ、知ってたさ。そうやって、さも分かってます感出しているんだろ?ならば、オレだって。オレは殴られた傷から血を滴らせながら奴に笑いかけた。



「本当はビビったんだろ?その仏頂面、いつまで保つだろうな」



 第二王子が掴んでいたオレの拳を捻り、オレを投げ飛ばす。第二王子が不快感を露わにした。


「不愉快だ、貴様。たった一撃。しかも、我に受け止められた癖に何を喜ぶことがある」

「へっ、慌てんなよ。本性見えてきてんぜ?その薄っぺらな顔の裏に隠した凡人の顔がさ」

「…なに?」


 第二王子が眉間に皺を寄せる。オレはまた攻撃に向かった。弾かれつつも、何度も何度も殴り掛かる。


 オレは息も絶え絶えに思考する。全部の攻撃パターンを吐かせるんだ。今は某モンスター狩猟ゲームの怒ったナルガ○ルガみたいな状態だ。コンボのパターンは決まっているはず。攻撃パターンを覚えて、コイツを攻略する。今のオレはコンテニューが無限にできるのだから、何度だってやってやるさ。


 そんな意気込みで戦い続ける。すると次第に状況が変わってきた。





 オレの拳が第二王子の頬に掠り、オレの拳が第二王子の左手を弾く。


 一撃。二撃。


 少しずつだが、オレの攻撃が当たり始めた。オレは攻撃の手を休めず、奴に向かい拳を振り続ける。上手く順応し始めれた。自然とボルテージが上がって行っていた。


 オレは知らず知らずのうちに、自分の胸中を呟いていた。



「アンタみたいに人をその気にさせて、うまく操った気になって」


 オレの頭に、ある人物の顔が浮かぶ。オレは、オレを騙したあの"悪い女"の顔を第二王子に重ねていた。人を上手く弄び、人を道具としか思っていないそんな人間たち。言いたい事の一つや二つはある。


 オレの拳に徐々に第二王子が追いつかなくなってゆく。第二王子の口元がきつく締まる。オレは拳を振りながら語り続けた。



「そうやって、人を騙して搾取して。いらなくなったらポイって捨てやがって」



 第二王子は聞いてか聞かでか分からぬまま、防御に脚も使い始め、後方へ飛び、回避運動を取るようになっていった。



 空の緑が紅を塗り替え始めていた。オレは攻撃の手を緩めず、更に勢いを増していく。第二王子の左手を弾き、そして右手も弾き飛ばした。無防備になった第二王子に向かってオレは殴る準備態勢にはいった。




「分かってんのかよ、その裏で泣いてる奴がいるって。苦しんでる奴がいるってこと!」




 オレは叫んだ。第二王子の目が見開かれ、成す術のない第二王子の顔面に向かい、オレの拳が飛んでいく。最早第二王子に防ぐ手立てはなかった。




 バギィッ


 と、オレの拳で第二王子の頬が凹み、口から血を噴く。そして、勢いに流されてビル群に向かって第二王子が吹き飛んでいった。高速で飛んだままビル群に衝突すると、そのまま五棟をなぎ倒して、彼は地面にめり込んでやっと静止した。粉塵で彼の姿は見えないが、なんとなく勝敗は付いたと分かった。



 オレは空中で肩で息をしながら、ひとりごちた。





「はぁ…はぁ…。だから、オレはお前をぶん殴るって約束したんだよ。未来ある若者とよ」




 制限時間タイムリミットが近付いている。オレは門を閉じる準備に入ることにした。

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