第31話 オーロラの夜

 緑のオーロラと紅いオーロラが東京の上空に広がっていた。一部停電でいつもより暗い東京にイエローナイフのような夜空が見えるのだった。

 少女が空を眺めながら、母親に抱っこされていた。


「ねぇ、お母さん。お空に人がいるよ」

「そんなわけないでしょ。変なこと言わないの。すみませーん!子供がいるんです!譲ってくれませんか!?」

「でも、ほら。保育園行くときに会うおじちゃんが空を飛んでいるよ」

「もう変なこと言わないの。ほら、行くよ」


 少女が母親と共にバスの中に消えていく。彼女は後年「東京でオーロラを見た」と言ったが信じる者はあまりいなかった。門から第二王子が現れた後、空を見上げる余裕のある者はいなかったから。


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 腕代わりに第二王子の紅い靄がオレに殴りかかる。それをオーロラ色の靄を凝縮してオレは塞いだ。その接面に稲妻が走る。

 オレ達二人は空中で二十㍍程度の距離を空けて、静かに対峙した。金髪イケメンと純日本人っぽい顔のオレという、ハリウッド俳優とパチンコ屋にいそうなオッサンの対談と言ってもいい、なんとも不釣り合いな対峙だった。


「よっ、久しぶりか?」


 第二王子は黙しながら紅い靄による打撃をもう一度放つ。しかし、それをオレもまた防いだ。第二王子の低い声が返答した。


「貴様など会ったことはない」

「そっか。なら、初めましてか。個人的に恨みは無い。いや、あるか。よくも平穏に生きるオレのこと狙いやがって。そのせいでこんな事になっちまったじゃねえか」


 オレは自分で言いながら笑った。何故オレはこんなことをしているのかと斜に見る自分がいる。昨日はまさかこんなことになろうと露にも思わなかった。しかし、第二王子が反応することはなく、オレは続けた。


「自分で持ってみて分かるが、こんな力この世界にあってはいけない。今のオレ達の世界には強過ぎる力だ。だから、門を閉じる。だけど、分かっているよ。アンタはそれを阻止するだろ?オレ達は戦う運命にある。そうだよな?」

「…あぁ」

「だけどな」


 そう言ってからオレは第二王子を睨みつけた。第二王子が目を細めて、不快そうな顔をした。


「それ以上に、子供や若者を騙して、手駒のように使うテメェを許せねぇ。だから、決めたんだ。お前のことはこの手でぶっ飛ばすって。だからよ、こんなエクートを使ったサイキックな打撃なんかじゃなくて…」



「肉弾戦といこうじゃないか!」


 オレは一瞬で第二王子の懐に飛び込み、殴る体勢に入る。二人のオーラが勢いよく反発し合い、静電気のように稲妻がそこら中で弾け、オレが飛び込んだことで生じた風が第二王子の長髪やマントをはためかせる。

 しかし、第二王子の顔に動揺はない。




 オレは拳を突き出して、最初の一撃を放った。

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