第26話 初の転移

 啖呵を切ったはいいが、オレは自分にはもうエクートを使えないことを思い出した。やっべ。オレ、またなんかやっちゃいました…?


「どうせ貴方のことだから何も考えてないのでしょう?」


 サーラの声がしたかと思うと、サーラがオレと第三王女たちの間に割って入ってきた。サーラがオレを振り返り、顎で指示した。


「行きなさいよ。時間稼ぎくらいなら出来るわ。ただ寄り道はしないでよ?五分保つかも分からないわ」

「サーラ…」


「私は神崎さん貴方をずっと監視していました」


 アントニオが語り出して、サーラと横並びにオレの前に立つ。


「私は二重、いや三重スパイとして過ごしていたのです。本当の名前はユライハム・ウォーテム。アントニオは偽名です。故郷聖ノブリス王朝の諜報員、武器商人の役員、そして米国の諜報員の名を持っています。こっちに来てからは、貴方を"兵器"として研究していました。だけど、貴方を観察して、一緒に過ごしてわかったんです。いや、情が湧いたんです。この人は兵器ではない。優しい人なんだと。私は聖ノブリス王朝より『力に目覚める気配があれば殺せ』と言われていました。でも、ずっと迷っていました。会社のみんなには神崎さんのエクートが渡っていたから、エクートがあることは知っていました。しかし、殺すことはできなかった。今日も迷っていました。しかし、神崎さんに着けていた盗聴器を通して私はずっと聞いていました。そして、決めたのです。今ここに来ることを」


 アントニオ、いやユライハムがファイティングポーズをとる。ユライハムがオレに振り返り、笑う。


「まぁ、下級戦士なので、王子相手には時間稼ぎできるかも分かりませんが」

「ユラ…ユラフ…ユラ」

「アントニオでいいですよ、神崎さん」

「…アントニオ」


 オレは二人の背に手を当てて、俯いたまま二人に頼んだ。オレにエクートは扱えないが、気持ちだけでも二人に力を渡してあげたかった。



「オレの出来る限りのパワーを渡しておく。後は頼む」

「ふん、早く帰ってきなさいよ」

「期待しています。あとで、満タンにしてそれは返してくださいね」

「あぁ、すぐ戻る!」



 そう言ってオレは次元転移装置のボタンを押した。



---


 第二王子の目は遠くを見ていた。千里を見渡すその目でエクートの"流れ"を見ていた。しかし、そこに意志が戻ってくる。そして静かに席を立った。


「行かねばならぬか」


 第二王子は純白のマントを纏い、歩き出した。そして、窓から小さなベランダに出るとその姿を消した。数秒後、第二王子の脚力でベランダは粉々に砕け、彼が"飛んだ"跡には衝撃波が拡がり、粉塵を上げ、家々を崩し倒した。

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