結 決着編
第25話 叛逆の狼煙
玉座の横に腰掛ける第二王子の眉がピクリと動いた。
「第三王女、第五王子。貴殿らだけでいい、門を突破しろ。良からぬ輩が現れた」
「はい!でも、どうして?将兵でも良くないですか?」
出撃に高揚した第三王女が顔をあからめながらも首を傾げた。第二王子は告げる。
「第一王子だ」
「えっ、でも兄上は『第一王子は死んだ』って…」
「信じる輩が出るとそれに縋る者が出る。故に事実は隠しておいた」
「ふふっ、流石兄上です」
「出撃しろ。貴殿らにしかできない」
「はい!」
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「はぁ…はぁ…」
サーラが肩で息をする。オレはそれを眺めていた。紅い靄が消えていく。それはサーラが飛ばされてから数秒の間に過ぎなかった。その間に胸中に去来した思い。それは、申し訳なさと、それ以上に人として駄目なことを承知しながらもやりようのない歯痒さを感じた。
本当のオレの力なら…。
同時に頭に目に見えない圧力が門の方より訪れて、オレは叫んだ。
「まずい!奴らがくる!」
同時に「ガゴォン!」という今までで最も大きな音が鳴り、大仏が飛ばされて門が開いた。大仏が門を閉じる前に二人の人影が飛び出して、こちらに向かってくるのが分かった。
一方で門と反対側の道路を黒塗りの車が時速百キロを超えるようなスピードでこちらに向かってきて、ドリフトしながら止まった。
アントニオが窓から顔を覗かせる。オレはババアに叫んだ。
「まずい、来ちまう!ババア教えてくれ!オレの力を戻す方法を!早く」
「奈良の山奥に林満寺に行け」
アントニオが急停止した車の窓から、オレに何かを投げる。
「これは一人用ですが私の次元転移装置です。私が帰るために貯めた十年分のエネルギーが入っています。故郷には帰れませんが、奈良に行くくらいの分は貯まっているはずです!」
「サンキュー!」
しかし、そのやり取りは彼女らがやってくるのに十分な時間となった。空から女の子の声がした。
「へぇ?お兄さんが第一王子?なんか弱そう」
仰ぎ見ると空から降ってくる二人の人影を見つけた。全身を黒いマントに包む金髪ツインテールの二十代の女の子と、気弱そうな緑髪のキノコヘアーの二十代の男がいた。
オレの頭脳にアラートを流れる。多分今までで一番やばい。つまり、ナルミアすら上回る力を持つ。二人がふわりと着地した。
オレは冷や汗ながら問うた。
「第三、第四王子ってとこか?」
「半分せいかーい。私が第三王女で、こっちが第五王子」
「…ねぇ、ユンフ姉さん。あっち」
「ん、どれどれー?おっ、あれは…」
第三王女が手で望遠鏡を作り、第五王子が指差した方を覗き見る。そして、彼女は目標を見つけると嬉しそうに微笑んだ。
「そこに死体のように横たわるのは、用なし無能の第七王女のサーラ姉さんではありませんか!やったー!久しぶりに会えて嬉しいよ、お姉ちゃー…。いや、弱過ぎてもう"妹"でしたか」
サーラがむくりと体を起こして、片手を挙げ、苦笑いを浮かべた。
「これはどうも。随分な挨拶ね、ユンフ"お姉様"。会いたくなかったわ」
「ふふっ、精一杯強がっちゃって。可愛い」
「…ユンフ姉さん、あれ」
第五王子が第三王女のマントを摘み、促した視線の先にはナルミアがいた。第三王女はまた笑みを浮かべた。
「おやおや、そんなところにいるのはナルミーじゃないですか!生きていたんですね!てっきり死んだのかと思ってました、無能だから。でも、やっぱり兄上は正しかったんですね」
そう言ってから少し間を置き、第三王女は吐き捨てた。
「『最初から期待してない』って言ってました。危うく私は騙されそうでしたけど、兄上のせいかーい」
無言のままナルミアの目が大きく開かれる。ナルミアの目に涙が浮かぶのが見えた。ナルミアに自分を重ね見るオレは胸に熱いものが滾るのを感じ、ナルミアの涙を横目に見た後で、目を押さえて笑った。
「ぷっ、あははは」
「どうしました?狂いました?」
第三王女が不快そうに首を傾げる。オレは今度は拍手をして彼女に話しかける。
「いやー、いいね。アンタのその感じ最高だ。第三王女だっけ?」
「はぁ?なんですか?気持ち悪いんですけど、おっさん」
第三王女は眉間に皺を寄せて本性を顕した。そんな彼女に、オレは指差してカッコ良く告げた。
「それくらい悪役の方がやり易い」
「はぁ?」
「お前ら全員まとめて…」
「ぶっ飛ばしてやるよ!」
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