第23話 まだ続く波乱

「エクート。なんて力なんだ…」


 オレは冷や汗を垂らした。何故か分からんが、エクートによる紅い靄が自衛隊の自動小銃を分解した。サーラが呆れながら違う違うと手を振る。


「いやいや、そんな力ないから。エクートができるのは自己強化だけよ」

「そうなのか?なら…」


 試しにもう一振りしてみる。すると、自衛隊の服がはだけた。「いやん」と言いながら乳首と股間を隊員たちが抑える。あっ、ごめん。

 オレはサーラに「お前のせいだ」と言わんばかりの目を向けて、責任逃れをしようとした。サーラが呆れたまま目を細めて、「私のせいにしないでよ」と無言は圧を掛けてきた。


 キャリアウーマンが動揺を露わに一歩後ずさった。同時にその手に握るスマホから、スマホを落としたような音がした後で、〈アントニオさーん!〉と安心したような多江ちゃんの声がして、〈神崎さん。人質は解放しました〉というアントニオの声がした。


 オレは口角を上げて呟く。


「形勢逆転…だな」

「くっ…!」


 キャリアウーマンが歯を噛んで悔しがる。そして、続けた。


「米国の力がないとあの門は開いてしまう。あっちに渡ったシュメールたちがやってきてしまうのよっ!それに日本は戦争になるのよ?分かっているの?!」

「分かっているさ。だが、どこの誰かは知りませんが、あんたの作戦ではどの道うまくはいかない」

「釈迦由美子よ」

「正直、今名前聞いてないんですけど、まあ、歩兵戦では彼らに勝てません。最終的には核などに頼る事になる」

「どうしてそんなことが分かるのよ?」

「彼等には弾丸はききません」

「今私たちが持っているのはイルクートすら打ち破れる特製弾なのだけど?」

「そ、そうでしたか。…素敵ですね」


 あぶねえ!もし撃たれていたら相当やばかったってことか。撃たれなくて良かったぜ、まったく。


「はあ?ふざけないで。で、どうして?」

「彼等の身体はエクートで硬質化していますし、超回復が可能です。治すことも。一方でその特製弾には限りがある。違いますか?」

「はぁ…。よく分かったわね、その通りよ。弾丸はこの約一千五百年の間に鋳造できた駆動金属分のみ。約三万発しかないわ。で、じゃあ、逆に聞くわ。米国に頼らずに貴方はどうするっていうの?」

「オレならあの門を閉じることが可能です、多分」

「なんですって!?どういうことなの?」

「詳しいことは…」



 そう言って、腕で後方を指し示す。


「ババア頼んだ」


 ババアが煙草をふかして、不満そうな顔をした。


「人遣いの荒い奴だね、まったく。そういうときは頼み方ってもんがあるだろ?」


 オレは腰を45度に折り、ハキハキと答えた。


「すみません。よろしくお願いします!」

「ちっ。しゃあないね」


 そう言うとババアは吸い殻を地面に投げて踏み潰した。それから語り出した。


「あの門は膨大なエネルギーにより世界線を移動する装置。それは地震や火山活動ほどのエネルギーが必要だ。かつて、嬢ちゃんたちのご先祖がこれを使い、異世界に渡った。だが、何故門は今までなかったと思う?」


 ババアは皆に問いかけた。沈黙の後、答えを知っているサーラがそれに答える。


「門を維持するのにはエネルギーが必要」

「正解」


「そうなのね」


 それを聞いた釈迦由美子がひとりごちて、思考するように顎に手を当てた。そして、サーラに問う。


「何年?」

「分からない。でも、今回は多分一千年くらい持つんじゃないかと思うわ」

「それじゃあ全然駄目じゃないの…。閉じるまで保たないわ」


 そこをオレが引き取った。


「だから、オレが閉じる」

「えっ?」


 サーラと釈迦が同時に聞き返した。オレは続ける。


「オレのエクートをあの門にぶつける。理屈は分からないが、あの門を動かす自然エネルギーとエクートは反対の性質を持っている感じがする。だから、それをぶつけて、あそこに蓄えられているエネルギーを打ち消す」

「そんな不確実なエビデンスを信用しろというの?」


 腕組みした釈迦由美子が苛立ちを露わにしてオレに問うた。そこをババアが補足してくれた。



「自然界のエネルギーは正規の方法により三次元に落とし込まれているが、エクートは自然界としては違法な方法でコンバートされたエネルギーなのさ。エクートにより抽出された違法なエネルギーは本来はこの三次元に存在してはいけない。故に正規のエネルギーと打ち消しあってゼロになるようになっている」


 オレはよく分かってはいないが、そういうことだろうと「ウンウン」と頷いた。その上でサーラを見遣る。その目には少し不安があった。しかし、オレはそれに触れずに、一方的に告げる。


「やるぞ」

「…分かったわ」


 決意を固めたサーラが少しの間の後頷いた。この作戦が成功するかは、サーラに掛かっている。まだ彼女はオレのエクートを扱いきれていない。そのプレッシャーが彼女の心に重くのしかかっているのだろう。



 オレはサーラの手を握ってやる。


 パシンッ!


 その瞬間頬を叩かれた。


「あっ、ごめんなさい!つい反射的に…」


 オレは口から血を垂らしながら、一度咳払いをして、笑顔でサーラにもう一度呼びかけた。



「ビビる必要なんてない。やるぞ」



 何とかカッコ良く決まったな。

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