第22話 迫る選択の時


「あれくらいなら…今の貴方と私なら一網打尽に出来るわよ」


 サーラがこっそりオレに耳打ちした。紅い靄がまだオレたち二人を包み込んでいて、サーラがオレのエクートを操っているのを知っている。ああ、分かっているさ、それくらい。だが、そうすれば本当に人質を殺すであろうことも、冴えているオレは分かっているのだ。今までは読み取れなかった表情の機微や筋肉の硬直具合など、それらが情報として脳に伝達され、嘘か本当かも分かるようになっていた。


「そのイルクートを解いて、こっちに来なさい」


 キャリアウーマンが欧米ドラマの警察官のような仕草でそう言った。この場は観念するしかないか…。


「サーラ、エクートを…」


 その時だった。キャリアウーマンのスマホにノイズが混ざり、一瞬だけ通話画面に切り替わった。


〈神崎さん。こちらの問題は対処します。どうか貴方は為すことを為してください〉



 そして、画面はまた我が家に戻った。キャリアウーマンが動揺して叫ぶ。


「何事よ?!一体何?」

「…ハッキングのようです」


 部下が耳に手を当て、本部からの情報を伝える。キャリアウーマンは「はぁ?!」と叫び返した。


 オレも呆気に取られていたが今朝の記憶が蘇り、ニヤけた。


「サーラ、やるぞ!」

「えっ、あっ、いいの?」

「ああ!あの声はアントニオだ!」

「いや、誰よ」



 アントニオ。同じ会社の同僚で、今回この事態を最初にオレに教えてくれた奴。今回の騒動に一枚噛んでいることは間違いない。敵なのか、味方なのか分からない。だが、今の一言には熱があった。朝のような複雑な感情じゃなく、そこには何か振り切れたものがあった。


 オレは信じる。


 オレは軍隊に向けて右手を水平に振った。自衛隊が発砲する。しかし、その弾丸は空中で静止した。オレの手の軌跡に沿って紅い靄が水平に広がり、弾丸を包み込んだのだ。そして、その靄は自衛隊の一団まで届くと、自動小銃が音を立てて分解された。


 キャリアウーマンが信じられない顔をする。自衛隊員たちも慌てて、部品になった銃を拾い上げようとした。


 オレも紅い靄を纏い驚きながら呟いた。強風にいくら吹かれて霧散しても、それにも増して紅い靄は絶えることなくオレの中から噴き出してくる。


「これが…エクートの力…」


 サーラが目をポカンとして呆れながらつっこんだ。




「そんなわけないでしょ。なによ、これ」

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