第21話 脅されてしまう
強風が吹き荒び、土埃が舞う夜。電灯の灯りはまばらで、
「人質交換よ。貴方が協力するなら人質は解放する」
「それが信用できると?」
「私は国の機関の人間よ。約束は守るわ」
「人を
「正直に伝えたんだから評価して欲しいものね。それにそのことは米国の管理下での話だから、私たちの問題では無いわ。時間は三分。考える時間をあげる。それまでに結論を出して」
「そこに映っているのが本物だという証拠は?」
「話してみる?」
「ああ」
「佐久間、携帯を人質のどちらかに近づけて」
〈はーい。多江ちゃん、神崎さんから〉
ガサゴソと音がして、多江ちゃんの顔がアップで映る。その顔は不安と動揺が混ざったような顔だった。
〈神崎さーん!すみません。色々話しちゃいました。本当ならここで『私の事は気にせず』っていう場面だと思うんですけど、ごめんなさい。助けてくださーい!〉
次に婆さんの顔が映る。その表情は固く、変わることもなく、ただ「何故この人はこの機械を私の目の前に構えているのか」ということが理解できていない顔だった。
〈あっ、おばあさん。ここ、ここに今は神崎さんいるから、なんか話してみてください〉
なんて、若い男の声はするが、婆さんはその後も一言も話さなかった。
オレは悔しさと恥ずかしさのあまり、目を逸らした。婆さんすまん!「スマホってテレビ通話できるんだぜ」なんて言って、使い方を教えておくべきだったか!まさかこんなところで文明の利器を使うことになるなんて思わなかったんだ。
キャリアウーマンもバツの悪い顔をして、咳払いをした。
「というわけだけど。信じてくれたかしら?」
「…ああ」
お互い感じている気まずさには目を向けずに、また真剣そうな雰囲気を強調してとりあえず受け答えをした。
多江ちゃんのあの台詞は実に多江ちゃんらしく、AIや誰かが用意した合成映像ということは無さそうだ。つまり、オレが出て行った後、彼女らのところに入れ違いにこの組織の奴らが来たってことか。
「たとえば、オレに力がないと分かったら?」
「私もシュメールの末裔なの。そのエクートが分からないと思って?」
キャリアウーマンはスマホを銃代わりにこちらに向かって構えた。
「くだらない冗談は人質の命に関わると思って?」
後ろの自衛隊たちも追従して、自動小銃のトリガーを握る指に集中し、銃の部品がカチャリと鳴る音がした。
キャリアウーマンは無機質な顔で、最期通告を行う。
「本当は私だってこんなことしたくないのだけれど。あの門を破壊するためには米国の協力が必要不可欠なの。さあ、時間よ。選びなさい。自分の命か、人質の命か」
オレは生唾を一つ飲み込んだ。結論は決まりきっている。しかし、冴えているオレはその結論の"結果"が見えていた。米国では日本の領土と日本人を犠牲にする手でしか、聖ノブリス王に勝てない。
そう、オレしか勝てはしない。
オレの父母を殺した彼には。
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