第20話 力の解放と

「いや、アンタ『力が欲しいか』って聞いてきたじゃねえか!それってそれが出来る奴の台詞でしょ!」

「はあ?なんだい?アタシが悪いってのかい?勘違いしてんじゃねぇよ、全く」

「う、うそ…」

「そんなことより、さっさとその怪我治しな。嬢ちゃん、そこのクソチンポを治してやりな」

「えっ?あっ、はい!」

「おい、自然とクソチンポ呼びを受け入れるな。まだクソチンポじゃない可能性もあるだろ」

「いや、ないわよ。こんな性格が悪い男がいいモノ持っているわけないでしょ」

「恥じらえ、お前はもう少しそういうことを言うのを恥じらえ」

「うるさいわねぇ。そういうところよ」


 そういいながらサーラがオレに近づき、寝そべるオレの身体に手を添えた。


「イシュリスの神よ。その力をかしたまえ」


 サーラから紅い靄のようなものがではじめ、それがオレ達を包み込む。暖かく、懐かしい。何故かそう感じる。母との思い出がまた脳裏に過った。そうか、あの時思い出したのもサーラのおかげだったのか。

 ババアが勝手に語り出す。


「アタシにはお前さんの力を戻すことはできない。だが、嬢ちゃん。分かるかい」

「えぇ…。うっ」


 サーラが冷や汗を垂らして少し苦しそうな顔をする。まるで暴れ牛に乗っているかのような。


「難しい。前は意識朦朧としていたし、必死で分からなかったけど、"これ"は私の力じゃない…!」


 サーラがガタガタと身体を何かに引っ張られるかのように揺らす後方で、ババアが煙草をふかす。



「そうさね。鍵穴は錆びちまっていて、扉が開かない。それなら、"別の扉"を用意すればいい。"共鳴"。そんな感じの現象により、エネルギーだけ別の者が取り出す。おい、クソチンポ分かるだろ」


 オレはため息を吐く。さっきババアの部屋でのやり取りを思い出され、オレはこう返した。


「せめて梅コーヒーとあだ名しろ」

「へっ。やっと思い出したかい」


 ババアはそう言ってにやりと笑った。


「今、アンタはエクートの共鳴により冴えた状態にある。だからこそ、昔のこともよく思い出せるだろう」

「ああ」

「そこの少年に斬られた後、アンタが普段より冴えていたのも、音叉と同じく共鳴が鳴り止むまでに時間がかかるからさ」

「そうなのか。だから、ナルミアの気持ちがなんだか感じることができたのか。普段全く人の気持ちなんて分からないんだけどな」

「ああ。アンタは常人とは違う。分かったか?」

「オレはやっぱり違う世界の生まれなんだな」

「そうさね」


 なんだか少し寂しい気がした。しかし、何故だろう。心がネガティブに向かわない。体から力が溢れ、全ての感覚が冴え渡っているが、その一方で心は枯山水のように静まり返っている。まるでスポーツ選手のゾーンみたいだ。そう今なら…



「何でも出来る気がするな」

「くっ…。む、無理よ。貴方のエクート、私じゃ扱いきれない」

「そっか。なら、もう大丈夫だ」


 オレはゆっくり立ち上がる。へたり込むサーラに手を差し伸べて、彼女を立たせてあげた。もうオレの怪我は治ったようだ。


「ありがとう」


 サーラは目を合わせることなかったが少し頬を赤らめた。感謝される必要はない。ただ今は座っていない方が良さそうだったからそうしたまでだ。紅い靄はまだかかり続けて、オレたちを包んでいた。




 コツコツとハイヒールがアスファルトを打つ音と、規則正しい軍靴の音が鳴る。


 オレはゆっくり振り返った。目線の先には明らかにキャリアウーマンであろうビジネススーツに身を包んだ初老の女性と、その後ろに武装した自衛隊員が並んでいた。



「やはり凄い力のようね。貴方が神崎守ね?」



 オレは無表情のまま返す。


「違うと言ったら?」

「人質を殺す」



 キャリアウーマンがスマホをオレに見えるように掲げた。画面にはウチの茶の間が映っている。その中に多江ちゃんと婆さんがいるのに気付いた。

 オレは怒りを隠しつつ尋ねる。


「用件は?」

「一緒に来てちょうだい。貴方を米軍に引き渡すわ。実験動物モルモットとして」

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