第5話
「勿論好きにしてくれて構わんよ」
翌朝、ミトを正式に村の住人として認めてもらおうと、村長リンドの元を訪ねたエミリーは拍子抜けするほどあっさりと
村長によれば元々獣人、また他にも何種類か存在する亜人は人間が今よりもっと狭い領域で生きていた時に、独自の勢力を各地に築いていた種族らしい。それらの勢力を
「しかし意外だな。昔町に出た時に錬金術師に有った事が何度か有るが、彼らは亜人を奴隷にすることに賛成していたのだが」
「それは…亜人がどうというより…」
「ん?」
「えっと…人間でもそうなんですけど、体の一部から錬金術の素材とかが取れるから、人間扱いしない方が都合が良かったんだと」
「ほう、成程。ではひょっとして儂らでもエミリーさんの役に立てるという事かな?」
「いえ…その…素材ってその…男性の精で…」
「うむ、聞かなかったことにしよう。とにかくヴィト村は新しい仲間を歓迎するよ」
「ありがとうございます。だいぶ奴隷扱いで心が弱ってますけど、素直な子です。きっと皆さんとも上手くやっていけると思います」
こうしてミトはめでたくヴィト村の新しい仲間と認められた。村長の言うとおり、ヴィト村の人間は獣人だからと言って拒絶することなく、初めはいつもエミリーの陰に隠れてびくびくしていたミトも、次第に積極的に自分から村人に挨拶するようになっていった。
そのままなら、エミリーにとって奴隷問題はミトを幸せにすることで完結しただろう。だがミトをあっさり手放したゲオルギウスは、エミリーが新たに錬金するようになった鎧の売買で資金を蓄え、新しい奴隷をヴィト村のエミリーのプレイヤーホームに連れてきた。
今度の奴隷は男としても長身のゲオルギウスとほとんど変わらない長身の女性で、長く伸ばした草色の髪と、その神から大きく突き出す長い耳、また一目見るとふくよかな体形かと誤解するような豊かな双丘の持ち主だった。
「ゲオルギウス、一応聞きますが、彼女は?」
「エルフのリルフェルスだ。本当の名前はもっと長ったらしいらしいが」
「で、なんでまた奴隷を買うなんてことをしたんです」
「お前なぁ、割り切れよ。大体一人でモンスター退治ってのは危険すぎるんだぞ」
「なんでそんな非人道的なことを私が割り切らなきゃいけないんです!一人でモンスター退治をするのが危険だって言うなら仲間を募ればいいでしょう!」
「仲間なんて作ったら分け前が減るじゃねぇか」
「奴隷ならいいって言うんですか!」
「当たり前だろ」
「当り前じゃありません!調べました、亜人は奴隷扱いされていますが、それは人間が勢力拡大する中で占領した種族じゃないですか!」
「うるせぇなぁ。大体獣人の時は子供だからダメって言ったから、こっちだって大人の奴隷を選んでやったのに、ぐちぐち言うなよな」
全くエミリーの琴線には触れない理屈だが、ミトを強引に引き取ったときは確かに彼女が子供であることを理由にした。今回はゲオルギウスも引き下がらないだろう。
「それじゃ、いつも通り村長の依頼受けて来るから。今夜はレニィの店に行くし、そんなに可哀そうなら一晩優しくしてやれよ」
ゲオルギウスはあっさりと言い残してホームを出て行った。ゲオルギウスが出て行くと、まだ彼を恐れているミトが階下に降りてきて、リルフェルスに手を差し伸べる。幼い少女の無言の優しさにどうしていいのかわからない様子のエルフに、エミリーの心にも火が付く。皮肉か本心かは知らないが、主人が言うなら一晩、めいっぱい甘やかしてやる。まずは食事からだ。
「ねぇリルフェルス?」
「はい、奥様」
「う…奥様じゃなくてエミリーって呼んでくれる?」
「しかし…」
「聞いててわかったでしょ?ゲオルギウスとは上手く行ってないのよ」
「では、エミリー様?」
「エミリーさん、でお願い」
「かしこまりました。私も、人間には名前が長いと言われるので、フェリーとお呼びください」
これは
エミリーは食材や味付けの好みを細かくフェリーに尋ね、彼女が喜びそうな料理をミトの手伝いの元何皿も作り、とっておきの果実酒を振舞った。食後にはエミリーとミトとフェリーの三人で自慢の風呂につかり、一緒にフェリーが唯一覚えていた子守唄を三人で何度も歌った。
そしてフェリーの長い髪からしっかりと水気を切って梳り、三人で寝間着に着替えてエミリーのベッドに横たわった。ミトが来てから新しいベッドはミト用と客室用に買ったが、今日はフェリーを甘やかすと決めたエミリーは人肌の温もりを感じながら眠ってほしかった。狭いベッドを分け合って寝っ転がると、フェリーの豊満な体がエミリーに密着する。
「フェリーの胸…なんか凄いね、大きくて柔らかくて」
「エミリーさん、気に入りましたか?」
「へ?いや、そういうつもりじゃ無かったのだけど…でも、うん…」
「では私の胸に顔をうずめてみませんか?わたしも、男の欲望以外でこんなことをするのは初めてですが、なぜかとても幸せな気持ちになります」
ちょっとこちらが子供になったようで気恥ずかしいエミリーだが、この状態でフェリーが幸福を感じるのであれば否やは無い。恐る恐るフェリーの柔らかな体に密着すると、フェリーはエミリーに遠慮するなとばかり、抱き寄せてくる。
すると焼きもちを焼いたのか、後ろからミトがしがみついてくる。結果として、三人はベッドをだいぶ余らせて一塊になった。
エミリーはやはり一晩だけなんて満足できない、と思った。いつかゲオルギウスの考えを改めさせて、フェリーを、ひょっとしたらもっと増えるかもしれない奴隷の娘たちを解放する。その上でゲオルギウスのモンスター退治を手伝おうという娘にはその道を、そうでない娘には別の選択肢を示したい、そう思った。
新たな決意を胸にすると、エミリーはそっとフェリーの背に回していただけの腕に少し力を入れた。その決意を感じ取ったのか、フェリーもふたたびエミリーを抱き寄せてくる。
この道はいばらの道かもしれない。だが必ず歩き通してみせる。だが今夜は、この
錬金術師エミリーのスローライフ 嶺月 @reigetsu_nobel
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