二、人生経歴と上方の言葉

 「私は、9歳まで上方に住んでいました。桐という名です。

 ある日、母が私と父に“逃げろ”と言いまして、私は父と共に富士山の麓にやって来ました。

 その時、葵という名になりました。

 父は鳴沢氷穴で氷作り、富岳風穴ふがくふうけつで蚕の冷凍をしています。

 数日前、大権現様に氷を献上しにいきました。

 献上の前日、宿で御侍に突然「ほれ、帰るぞ」と言われました。父に助けられ、事なきを得ましたが。

 次の日、献上しにいったとき、見立てた着物をやるので昨日の御侍の養女になれ、と言われました。

 それが嫌だったので、上方の母の方にいこうと思い、逃げてきました。

 逃げてきて、富士山の麓の森でさ迷っていて、大きな苔むした木があって、触ったら夢の中にいて、気がついたらここでした」


 うん。自分でも訳分からん。


 「そうなんですね。僕も上方で育ちまして、5年くらい上方の言葉が抜けなかたのですよ。葵さんは抜けてますね?」


 「父に固く禁じられたので。こないだ久しぶりに使って懐かしくなりました」


 「では、僕は上方の言葉全開で良いですか?」


 「い、良いですよ?」思わず目が点になる。どういうノリなんだこの人は。


 「おおきに葵さん。葵さんも全開でええんとちゃいます?」


 「お、おおきにありがとう」結構引くんですけど。


 「葵さんは数えでなんぼなん?僕は17やけど」


 「13です」


 「ええね。育ち盛りやね」


 「もうっ、そんな年じゃあらしまへん‼️」

 

 随分と親しみやすい人だ。つい、上方の言葉が炸裂する。

 

 「かんにん、かんにん。せや。葵さんはお父さんから逃げたはるんやろ?」


 「はい、上方に行きたいて思うてますけど」


 「うーん、葵さんの話を聞くに、お母さんは多分あの戦で西軍についた武将の娘かなんかと思うんやけど。あの時期ゆうたらそんくらいしか出て来ぃへんし。そやからうちにしばらく泊まるとええし。な?」


 「はぁ、おおきに、呼ばれます」


 

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