第二章 富士神社

一、富貴

 葵は夢の中にいた。森の中、馬と迷走している夢だ。後ろには見知らぬ青年がいる。つまり、相乗りだ。


 青年の気配を探ると、優しさと焦燥しょうそうとほんの少し欲望が混じっていた。


 青年は、葵を揺さぶっている。夢の中だからだろうか。馬に乗っている感覚はあまり感じられない。しかし不思議なことに、揺さぶっている振動は非常に現実味リアルがある。はっきり言って、不自然すぎて不気味だ。


 ・・というか、なぜ夢の中にいるのだろう?うっかりあの木で眠ってしまっているのだろうか?だとしたら、まずい。そろそろ父が私がいないことに気付いて馬で駆け回る頃だろう。速く上方まで行かねば。



 「・・・え?」



 うっすらと目を開けると見たこともない場所が眼に飛び込んできた。


 慌てて目を擦る。けれど、風景は変わらない。


 呆然としていると、がらりと襖が開き、夢に出てきた青年が姿を現した。


 葵は、どこですか、貴方は誰ですか、と訪ねようとして口を開いた。



 しかし、部屋に放り込まれた声は、葵の声ではなかった。



 「気が付きました?大丈夫ですか?」


 

 その声には心配の他、焦りと緊迫感がある。



 貴方は誰?、と問うた訳でもなく、青年は話し出す。


 「僕はですね、富貴という者です。とある神社の若神主ですよ」


 「とみたか、さん」


 案外、おっとりゆったりとした声だ。


 「ええ、富むという字に貴族の貴ですね。僕の父が神主の神社は、富士神社という神社なのですよ。代々僕の一族は富を名前にいれるのですよ」


 「はぁ・・・」


 青年は五尺余ほどで整っている顔立ちをしている。すっきり爽やかという感じだ。


 「それはそうとも、貴女は誰ですか?最近あったこと、人生経歴諸とも話してください」

 青年の眼光は、鋭く光っていた。

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