閑話  富貴と葵

 僕は富貴とみたか。数えで17。富士山のふもとの神社の若神主わかかんぬしだ。

 訳あって上方で育ったため、親しい者や上方の者と話すとき、それと感情がたかぶった時に上方の言葉が出てくる。


 富貴は、飛び込んできた壮大な自然のかおりに思わず目を細める。



 ・・・心地が良い。



 富貴はここが好きだ。上方からこちらに帰ってき、馴れない空気の中、この森だけがいつだって自分を優しく包んでくれた。


 この奥に一番大きくて威圧的だが優しい光をまとっている木がある。


 昼寝にはとても良い場所だ。


 


 「__っ⁉️」



 その木に向かって歩いていると何かの気配を感じた。


 そっと首を伸ばすとあの木の側で倒れている13、14歳の少女がいる。


 気配を探ると、悲しみと怒り、絶望と決意を感じた。


 若神主である富貴ならば分かる。


 この子は大きい不思議な大きな精力エネルギーを感じる。



 ・・・このまま放って置くといけない‼️



 理屈とか、そういうのではなく、体が、感じる。訴える。



 気がつくと富貴は少女に駆け寄っていた。



 「っ⁉️」


 思った以上にを感じる。ビリリと腕が痛くなる。あかん。これはあかん。


 富貴は少女を揺すぶるが彼女は微動だにしない。よく見ると、眠っているようだ。


 幸い、今富貴は荷物を持っていない。


 少女は袴姿はかますがたのため、木に繋がれている馬に乗ってきたのだろう。馬の息は乱れていない。撫でてやると鼻を富貴のてのひらに擦り付けてきた。どうやら人になつきやすい性格のようだ。



 一番良い策は、少女を馬に乗せ、家に連れていくことだろう。



 富貴は少女を背負う。結構細くて軽い。


 馬に少女を先に乗せ、自分も乗る。


 相乗あいのりの要領で富貴は家まで馬を走らせた。

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