六、条件

 

 葵は自分の毛という毛が、片っ端から逆立つのを感じた。


 条件とは何でござりましょうか、と問うた父に大権現様、いや、としかもう表現出来なくなってしまった者が、




 「そもじには、とある武士の養女になって欲しいのじゃ」




 ・・・・・・は?




 流石にこの言葉は呟きとして出てきた。しかし、すぐに空気に溶けていく。




 父の視線を感じて葵は間抜けに開いた口を慌てて閉じた。




 大権現様悪魔の御方は、にこりと笑い、──葵には猛禽類の様な眼でにやりと笑ったにしか見えなかったが──座布団近くの鈴を手にとって、鳴らした。



 襖が、がらりと開き、一人の見覚えがある武士が膝行しっこうしながら、葵がすっかり存在を意識していなかった近習の隣に行き、大権現様人の面を被った悪魔に跪いた。



 

 「あっ・・・昨夜の御方・・・」



 「そうじゃ、拙者せっしゃ江戸町奉行えどまちぶぎょう桔平きっぺいじゃ」


 大権現様悪魔たぬきが補足する。

 

 「桔平は、そなたと同じような容姿ようし、歳、名だったらしい。だが、昨年、病で天に逝ったそうな。そこでそなたの出番じゃ。養女になってはくれまいか?此だけ金子は出すぞ」


 さっと大権現様たぬき親父が指を何本か立てる。


 狐につままれた、いや、たぬきにつままれた顔をしながら、父が折れた。



───────────────────────────────────


 いつもありがとう存じます。椛 風月です。


 本作も7話となりました。


 さて、本作では、登場人物の名前を草花も名前だったり、その一部などを使っております。ぜひどんな草花か想像してみてください。今のところ、何故か全員紫の花です。


 今回から、本作の関係で大権現様の読み仮名を変えさせて頂いています。


 非常に御不快な方もおらっしゃるとはおもいますがご理解をお願い致します。

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