二、献上の同行
ー夏も本場になった頃ー
今日は、氷を大権現様に献上しに行く日らしい。
「葵ー」
父が呼んでいる。はーい、と返事をしながら父の許に行くと、思いもよらないことを言われた。
「おまえも、同行しなさい」
は?
口は、その形になったが、声は出なかった。褒めてほしい。
基本、葵は面倒なことが嫌いだ。故に、
「そんな身の余ること・・・葵めには恐れ多き事にて丁重にお断り致します」
困ったように、畏れ多いように眉を下げることが重要だ。
だが、そんなことをやっても父には通用しない。
父がにやりと笑う。
「削り
葵の肩がピクリと動く。釣られているのだ。
ちなみに、削り氷というのは貴重な氷を削って器に盛り、甘い水飴やらをかけて食べる、非常に高価な点心だ。
父がもっとにやりと笑う。
「削り氷の水飴がけ」
肩が、手が、全身が震えてくる。
でも、堪える。耐える。誘惑に負けてはいけない。
父が最大限に口角を上げ、
「削り氷の水飴がけ、それと新しい着物」
葵ががっくりと肩を落とす。
最近、着物が欲しいと思っていることがばれたのだろうか。
「献上に同行しなさい。返事は?」
「・・着替えて参ります」
(つ、釣られたー)
葵は、とぼとぼと家に戻る。
自分が持っている最上級の訪問着を出して風呂敷に包む。葵の綺麗な柄だ。
(これよりいい着物買ってやるー)
自棄になってきた。馬で行くため、袴がいる。あとただの小紋。
少しいつもより乱暴に着替え、最小限の物を入れた風呂敷を固定すると、もう一度父の許に戻った。
氷は籠に積まれ、俊足の者達が走って運ぶ。
途中に何人もいて、交代していくそうだ。
「よし。行くぞ。」
葵は馬に乗る父の前に飛び乗る。
そうして一行は江戸に向けて出発した。
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