第46話 転機は来るか。
街角広場を出てこのまま駅から電車で帰ろうとすると、典子さんは真由ちゃんとあの頃にもう少し浸りたい、と言い出して広場に残った。高村と坂部は改札を抜けて、ホームに立って暫く二人は電車を待った。
「おい高村」
「何だ」
「俺は付き合ったから約束の話を聞こう」
「何の話だ」
「惚けるな! 典子さんの子供にどうして四代目の名前を祖父は付けたんだ」
「それだが和久井に上手くかわされた」
「どう云う事だ話がチグハグで何を言ってるんだ」
「典子を取り込んだ一件であいつの
「そんなに事実は複雑に絡み合ってるのか」
「今の処は何とも言えん」
ホームに立つ二人を取り込むように列車は風を巻き上げて入って来た。随分と荒っぽい運転だなあ。つむじ風は列車が巻き上げたのでなく自然現象だ
「どっちにしてもホコリが入って目が痛くなった」
「素直じゃないからだよ」
「そりゃあ無理だろう姉貴ならその場でひと揉めしてあとは怒り散らして終わるが典子の場合はこっちは末代までも祟られるからなあ」
末代は余計でも当分は口もきけないだろう。高村家の同じ屋根の下では無理でも、
「無理するな今日の事で和久井との話にお前は必要ないと判ったから此の夏は精々姉貴の気を惹くことに費やせ俺は亡くなった祖父から典子を支えた今度は和久井からも支えてやらないといけないだろう」
「和久井は伯父さんの作品に付く贋作のレッテルを剥がして独り立ちしてあげたいだけだろうならばそこまで高村が口出す必要はない問題は典子さんの気持ち一つで踏ん切りが付けばもうあのおじいさんは居ないのだからここらでそっちの方の踏ん切りをつけろ」
高村はどう踏ん切りを付けて良いものか、流れる列車の車窓に思いを絡ませた。
高村は屋敷に戻ると、待っていた姉貴から相談を受けて、美紗和さんの車で町の喫茶店へ行った。そこで千里さんが「お部屋ではインスタントの珈琲だから下の食堂に来れば本格的に焙煎した珈琲を淹れるわ」と誘われた。丁度典子さんも一服していた。どうやら典子さんは美紗和さんが、携帯で様子を聞いて迎えに来たのだ。その美紗和さんは、今度はそのまま高村と出掛けてしまった。千里さんに理由を聞くと、貴方の為に美紗和さんは奔走しているのだと言われてしまった。意味を問う前に「この珈琲茶碗凄く凝ってるでしょう」と千里さんに肩透かしを食わされてしまった。思わせぶりな人だが今は機嫌を損ねないように、そのまま飲みかけている珈琲カップを見た。カップは黒光りして
「どうしたの?」
「此の前、裕介さんから貰ったの」
高村は和久井から貰った物だと典子さんに言った。それが母の茶道教室には参加してないけれど、教室で見る物より凝っているらしい。
「それがペア茶碗のつもりなんだけれど良く見れば少し形が違うのよね」
と千里さんにも謂われれば、黒光りする色形は似ていたが、カップ表面の凹凸が手で整えただけ合って微妙に違っていた。
「さっきのファミレスの話では此の茶碗が和久井の伯父さんが作った物なら悪くないなあ、そう思いませんか?」
「悪くないけれど意図がハッキリしないと何とも云えません」
「そうね、でも、あたしは此処でお茶を習ってるけれどあのおば様連中の器の凝りようってもう聴いて居たら見栄っ張り過ぎて可笑しくなってくるわよね」
どうやら茶の心を習う千里さんと、おば様方とは掛け離れ過ぎてるらしい。
「教室に来る方々の茶器を見るけれど此の珈琲茶碗のような微妙な色使いや
典子さんの意見に千里さんも同じようだ。
「それは高村も知ってるのか?」
「勿論それどころか美紗和さんもご存じだけれど義祖母は解らないが美津枝さんは薄々感づいているけど特に問題視していなかったみたい」
どうも千里さんは茶道を通じて読み取っていたようだ。それに典子も同意した。祖母のやる定期的な茶会と、母の茶道教室は一線を画していたのだ。
「美紗和さんも今日の話し合いには気を揉んでいたわよそれで祐介さんが帰ってくれば直ぐに聞きたくて誘い出したのよ」
「じゃあさっき出掛けたのは高村でなくてお姉さんが誘ったのか」
「どうもあの姉弟はおじいちゃんの亡き後の鍵を握っている義祖母の動向に美津枝さんを動かして亡き義祖父の遺訓の主張を何とかしたいのよ」
そうか、いよいよ高村はそこまでこじつけて来たのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます