第45話 何も終わらない
ファミリーレストランを出ると、表で直ぐに和久井と別れた。真由は典子と一緒に付いて来てくれた。和久井と別れた四人は駅まで戻ると、改札に向かう高村と坂部に、和久井との知り合った
駅前の車のロータリーにあるタクシー乗り場の前にある、街角広場に建つログハウスのような木造平屋に入った。内壁周囲の壁には固定された木のベンチが取り巻き、中央の空間は幾つかの取り付けられた仕切り板で、迷路のようになっていた。全ての仕切り板には木のベンチが固定されていた。
「何だこりゃ広場と謂うより
とどうやら高村も中は初めてみたいだ。なんせ駅からそのままタクシーを使うから、殆ど素通りしていたらしい。それに引き替え真由さんと典子さんは、高校生の時は此処でだべっていたようだ。
高村と典子さんは四つほど違うだけだけれど、高村は地元の生活基盤には余り溶け込もうとしなかった。それどころか殆ど祖父と美術品での見聞を広めていたようだ。
建物内は休憩場の造りになっていて、壁や仕切り板に取り付けられた木のベンチの前は通路になり、横に並んで座るしかなかった。四人はそれでも仕切り板が直角に設置された丁度角にあたる部分に座った。そこなら向かい合わないが斜めながらも横に振り向かなくて喋れた。
「まあ妹さんの口利きだけでどうして和久井に会ったの」
先ずは坂部が真由に訊ねた。
「それはねぇ前から典子はどうしているか気になっていたけれどこっちから催促しないと連絡しない人だから」
と典子さんの顔を見ながら喋るが、反論がない処をみると当たっているらしい。
「それで妹が紹介した和久井って人から典子の消息を聞かれて渡りに船だと思ったのよ」
久し振りにどうしているか気になって、会ってみるとあの頃よりやつれて見えたから、相当苦労していると判った。
「それって、いつ?」
「夏休みに入って直ぐ」
「じゃあ和久井は俺達の後を追っかけるようにやって来たのか多分小石川から茶道を通じて色々な人や財界、金融機関などと交わっていると知ってやって来たんだろう」
それでは伯父の贋作には余程困っていたのだろう。なんせサークル活動を名目に、あんな壺を売り付けていたのだから。しかも学生相手だから売れ筋も決まっているし、買う者は彼女の色気に釣られただけだから数が知れている。
「あの人そんな人なんですか」
驚愕した真由さんは、それならさっきの話は、何処まで信じて良いものか迷うところだ。
「だから典子から聞かされたときは和久井が持ってくる品物を見るまでは心配してたんだ」
なんせ典子まであの女の手口に乗らされれば、ゆくゆくは当家の妻として、ここまで修行させたおじいちゃんに申し訳なかった。これには今でもそう思っているのかと坂部に呆れられた。だがここまで古美術品に対して、見識を広めてくれたおじいちゃんには、感謝しても感謝し尽くせない。だからそれとこれとは別だと高村は思っている。
しかしあの家の祖父とお前では、幾ら熱心に説明されても祖父とお前では美術品の鑑定には、仕込まれた年季に相当の開きがある。二十歳そこそこの高村とおじいちゃんと同格に扱って良いものか、坂部には戸惑いがあった。
「和久井の前ではお前の肩を持ったがそれでしつこいようだけれどお前の目利きは確かなんだろうな」
「あたしは大学に入って祖父から由緒ある家柄としての教養と知識を身に付けるように修行させられましたから裕介さんを見ていれば信じられます」
そうかこれだけは高村を信じるしか手立てがなかった。其れにしても年上から年下にさん付けはおかしいなあ。子供時分は呼び捨てていたのに。おじいちゃんが分け隔てした時は今と逆だった。その反動でここ暫くそう呼び合っているだけだと高村は説明した。しかし坂部には腑に落ちないが、今は高村の呼び方でなく和久井の問題だ。
「それで真由さんは典子さんと会って和久井を紹介したんですか」
「そうですけれどでもあの人は本当は典子でなく高村さんに近づきたかったようなのにどうして……」
しかしそれは、真由さんは、高村がそんな見識者だとは知らなかったようだ。典子さんも曖昧なままでは言えなかったのだろう。
「それは多分、小石川希実が調べたようだ」
「そうかあの女も一枚噛んでいたのか」
「それじゃあどうして典子でなく高村さんに直にあって話せば良いのに……」
「それはさっきも言ったように和久井は、どうも胡散臭い相手だと高村から思われていたからですよそれで典子さんを紹介してくれってせがまれたんでしょう ?」
「ちょっと迷ったけれど典子ももっと色んな人と接した方が良いかと思って。そうでしょう」
と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます