第43話 和久井に会う
翌朝は父親と克之が出払ったあとの朝食に、夏休み中の三人の大学生が食堂に顔を出した。今日は典子さんの付き合いで、余りスッキリしない裕介の朝食に、みんなは付き合わされた。そこでは千里さんと美紗和さんが、裕介のとろい食事を急かし立てている。坂部も今日の高村は異常に神経が高ぶっていると見えた。隣の典子さんはいつもなら食後の片付けに差し障ると早めに済ますのに、今日は高村に合わすように箸の上げ下げまでスローテンポになっていた。まるで千里さんが此の家に嫁いでくる前のようだった。典子さんが大学生になり千里さんが来るまで、祖父は一切の家事を利忠の妻にやらせた。そして典子さんには、品行を保つようにゆっくりと食事をするようにされた。まさかその亡き祖父を偲んでいる訳ではないが、そう見えても不思議でなかった。高村が食事を終わるのに合わせて典子さんも箸を置くと、すぐさま千里さんが食卓を片付けだした。それを申し訳なそうに振り返りながら、高村の後に続いて食堂を出た。目的の場所までは美紗和さんの車で送ってもらう。
「何で三人も一緒に行くの?」
典子さんの相手は、真由さんともう一人は裕介と同じ大学学生の二人なのに、と車が動き出すと美紗和さんに不思議そうに聞かれた。
「裕介は解るけれど何で翔樹さんも一緒なの」
これには高村が変な顔をして坂部を見た。これに坂部は、どや、と勝ち誇ったように見返した。運転席の美紗和さんは、チラッとルームミラーを見て、微笑んで直ぐに車を出した。
「これはおじいちゃんが遺した遺訓にも関連してくるさかいや」
へ〜え、と美紗和さんは何も解らないままにそれ以上は聞かなかった。
無言のまま発進した車は、直ぐに国道に出て十分もしないうちに着いた。なんせ市内と謂える雰囲気は五キロ圏内で、あとは田圃の中に大きなスーパーや店が立ち並んでいる。
越前大野駅前に着いた車は、国道から駅前のロータリーに入り込んだ。こんな所で待ち合わせしてるの、と美紗和は三人を下ろした。本当に美紗和さんが言ったとおりそこには何もなかった。
「此処で間違いないの?」
坂部は典子さんに
「此の先のファミリーレストランで待ち合わしているの」
「どれぐらい先なんだ」
「歩いて十分ぐらい」
「どうして美紗和さんにそこで下ろしてもらわなかったの」
どうやら典子さんは真由さんの見ている前まで車で乗り付けたくなかったのだ。それにしてももう少し近くの方が歩かなくて良かったのに、と坂部は愚痴を溢したくなる。しかし隣を歩く高村はそれ処じゃないと謂う顔をしている。
「おい高村、此処二、三日のデートはいつもこんな感じで歩いていたのか」
「仕方がないだろうこれから合うメンバーは車を持ってないから」
どうやら車処かみんな免許も持ってない、持っているのは坂部だけだった。だから車の免許を取れば良いのにと思ったが口には出さなかった。二人ともそんな雰囲気じゃないからだ。典子さんはともかくどうして高村まで合わして黙って行くんだ。仕方がない高村はともかく典子さんに聞いたら何か言ってくれるだろう。
「いつもそのファミリーレストランで会っているんですか?」
「ええ、この時間は子供連れが多いから多少お喋りになっても目立たないんです」
そんなにラブラブでない二人なら静かな喫茶店よりはいいか。店は困るが子供にも気兼ねなく親は食べられる。高村は余計な事を喋るなと謂う顔をされた。じゃあ俺を誘うなと言いたい。せっかく美紗和さんとは良い雰囲気になって来て本来なら二人でドライブに行けたかも知れないのに。
国道に面した広い駐車場を横断して店に入った。見慣れた和久井の顔が直ぐに目に飛び込んできた。一番端の六人掛けの広いボックス席に二人だけで陣取っていた。旦那を会社へ送って洗濯と掃除を終えて、やって来た子供連れの中流の奥様連中にすれば、六人掛けを女二人で占拠しているのは許し難い光景だろう。そこへ踏み込んだ俺達と合流しなければ、店は迷惑な客だろう思っただろう。中央の通路を歩いて三人は目指す和久井の席へ向かった。
坂部は誘われたとは謂え「なんで夏休みに福井まで来て和久井に会うんだ」と憤慨しても、隣の典子さんの為だからしゃあないか、と坂部は思った。
お久し振りねと愛想笑いで迎えられた。こちらも同じ態度で返礼して向かい側に座った。
テーブルには珈琲がふたつだけ載っていた。ファミレスで珈琲だけか。しけた客だと思ったのは坂部だけのようだ。高村は珈琲以外にパフェを頼んだ。
ウェイトレスに種類を聞かれて女達に何にするっと訊ねた。奢りだと聞いてすかさず和久井がメロンと大粒の苺の載ったフルーツパフェ注文した。他の子は苺にチョコやバニラの載ったクリームパフェだった。高村はアップルパイを頼み、坂部にも聞いて同じ物を五つ頼むと、ウェイトレスはサッサと引き上げた。
「アップルパイは多くないか?」
「みんな食べるだろう」
「まあ、変な組み合わせだけれど頂くわ」
と和久井が真っ先に了解した。
「お前だけだなあ大粒の苺とメロンが載ってるのは遠慮って謂うもんがあるだろう」
坂部は高村の腹に詰まった嫌みのひと言を代弁すると「まあ良い、今はそんなことを言ってないで話を聞こう」
と高村は坂部が晴らした
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