第十六話 鎌売の秘密、其の一
広瀬さまは、時々、あたしを
指一本触ることはなく、
その夜のなかで、直談判したのだ。
「二つ、お願いがございます、広瀬さま。
一つ、あたしが婚姻しても、女官として務めさせてください。
二つ、広瀬さまが今後、
あたしは、
この二つを叶えてくださいましたら、……
ただ、
たしかに、広瀬さまを恋い慕っていることを、行動で示した。
あたしには、その事しか広瀬さまに言える話はないが、……きっと、広瀬さまには十分なはずだ。
ばらしてしまうことは、椿売には、ちょっと申し訳ない。
きっと椿売は、黄泉から苦笑いをしてあたしを見ているだろう。
……でもきっと、もし椿売に、
「あたしの夢の為なの。」
と、話をできたのなら、椿売は、
───ふん、仕方ないわね。
と、この話を広瀬さまに話すことを、許してくれそうな気がする……。
ピリピリとした気配をまとって、広瀬さまが、
「……今、言え、と言ったらどうする?」
とあたしを見据えた。
あたしは倚子を立ち、礼の姿勢をとった。
「あまり、長い話をご用意できるわけでもないのです。
言いません。
この話は、あたしの夢を手繰り寄せる、命の
……きっと、こんな
広瀬さまから
広瀬さまは、はあ、と息を吐いて、額に手をあてた。
「……たまらんな。その名を出すとは。……わかった。おまえの好きにするが良い。」
そう言ってくださり、あたしは婚姻後も女官として務めを続ける事ができたのだ。
───翌年、
広瀬さまは、
しかし、この十八歳の娘は、とんだワガママ娘であった。
自分の生家から大量に、女官、武人を連れてきて、自分のまわりを、その者達で固めた。
その
……あの、あたしにいつも意地悪を言っていた
そのワガママ
あたしは女嬬になるどころか、その
広瀬さまは、
「約束を忘れたわけではない。だが、あれはどうしようもない。許せよ。」
ますます
あたしは頷く事しかできなかった。
───
ワガママ
その後、広瀬さまは、
控えめな雰囲気の、美しい十八歳の娘、
広瀬さまはあたしとの約束を果たしてくださった。
広瀬さまは、約束以上の事をしてくださった。
なんと、その初顔合わせで、
「
家柄も良く、
と、あたしを
宇都売さまは、
「わかりましたわ。」
と、にっこり笑い、すぐその場であたしを
「ありがとうございます!
あたしは礼の姿勢をとりながら、胸がいっぱいになっていた。
いよいよ、夢の
(宇都売さま。今は、広瀬さまに言われたから、あたしを女嬬となさっただけでしょう。
でも、後悔させませんわ!
必ずや、宇都売さまをお守りし、
あたしは使命に燃えた。
だが三日たった朝、宇都売さま付きの女官の一人、
「宇都売さま! 鎌売は女嬬に相応しくございません。即刻、女嬬を解任なさるべきですわ。」
朝の
「え……?」
と戸惑った。
倚子に座る宇都売さまの背後に控えたあたしは、ぎっ、と
そろそろ二十歳になろうかという
おかげで赤ら顔に見える顔で、勝ち誇ったように、
「その
ずっと前から、昨晩だって!
嘘ではありません。皆、知ってる事ですのよ、宇都売さま。」
と言い、薄笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。