第十五話 よろしなへ
満月照らす、
まだ、大広間では、宴が続いている。
琵琶の、ぼろん、ぼろん……、という音と、龍笛の、ひょぉぉ、という音が、楽しげに、途切れ途切れに聞こえ、ほんのり、人々の笑い声も聞こえてくる。
もう、遅い時間なので、
残った
鎌売と八十敷が、
まだ、二人は一緒に暮らし始めてはいない。
この後、日を開けて、また、
そうなのではあるが。
十八歳の、
もう、
家の覚えめでたければ、この親族顔合わせの宴で、
有りである。
もちろん、
鎌売の
両親を乗り越えて、
もちろん、
大人しく、宴で飲み食いをして、帰れば良い。
───八十敷にその選択はないッ!
あの一夜以降、さすがに、再度、女官部屋に忍んでいく愚行はおかしていない。
見つかったら死刑だからね!
あの時、鎌売は言ったのだ。
「明日も、明後日も、さ寝してほしいくらいだわ。」
と。
鎌売は覚えていないかもしれない。
でも今宵、鎌売は宴を辞する前、オレに意味ありげな目を向け、微笑んでから去っていった。
鎌売は、オレの
美しい鎌売……。
硬いようで、柔らかい身体。
若い枝のように、すらりと伸びた手足。
柔らかい下腹。
形の良い、こぶりな乳房。
そっと丸みを撫でて楽しみ、二つの梅の蕾にかじりつきたい。
鋭く、とっつきにくい顔は朱に染まり、身体はゆっくりとほころび、柔らかさを増しながら花開き、オレを迎えてくれるのだ……。
うぉぉ……。燃える。
だから、この佐味君の屋敷、鎌売の両親の
家柄の釣り合いは取れているし、あともう少ししたら、正式な
いざ!
鎌売の両親が眠る
「
と小声で正体を明かす。
部屋の中央の布団から、鎌売の
「……
という了承の小声が聞こえた。
と、布団から小太りの人影がむくっと起き上がった。鎌売の父上だ。
「許さんッ! まだ鎌売をやるものかッ! 父のうらぐはし鎌売をどこの
八十敷に掴みかかろうとした鎌売の父上だったが、鎌売の母刀自が無言ですっと
ぱっかあああん!
鎌売の父上は、あふ、と呼気をもらし、布団の上に膝をつき、倒れ、静かになった。その顔に力の抜けた笑顔が浮かんでいるのは何故か。
(ひっ!)
八十敷は恐怖する。
怖い。
「おや、あなた。良くお眠りで。」
澄まして自分の
「まったく……。自分も同じ道を通ってきたっていうのにねえ?」
と含み笑いをした。
八十敷は、ひく、と愛想笑いをする。
「さ……。うちの娘、今朝からそわそわしていたわ。……あなたを待ってるのよ。大事にしてあげてね。」
愛情深い母刀自の笑顔を向けられて、八十敷は顔を引き締め、
「はい、ありがとうございます。
と礼の姿勢をとった。
満足そうに頷く鎌売の母刀自に見送られ、八十敷は背筋を伸ばし、鎌売の眠る
* * *
八十敷は思案する。
眠る鎌売の上にいきなり覆いかぶさっちゃおうか。
きゃっ、と驚かせ、額をぴしゃりと叩かれるのも良い。
鎌売は厳しい顔で怒るのだ。
そして、その後、甘い微笑みを、ふいに零すのだ───。
愛おしい。
ずっと額を叩かれていたい。
だが、本当に驚いて大きな悲鳴をあげ、鎌売の両親に聞かれるとまずい。
まだ
「鎌売……。」
鎌売の
すぐに鎌売は上半身を起こした。
ほどいた髪がたっぷり、艶を放って肩にこぼれ落ちている。
切れ上がった
強い眼差しが、す、と八十敷を射る。
いちしの花のような赤い可憐な唇は、きりっと閉じられている。
白い肌。
満月の光が
はあ、思わずため息がもれる。
(ずっと、寝床で握りしめてくれていたのか。)
オレを待って。
感動で胸がいっぱいになる。鎌売は真剣な顔で、
「八十敷。話があります。」
と言った。
「おう。」
八十敷は逸る胸を抑えて、鎌売の正面に正座する。
「あたしがあなたの
子が産まれた暁には、全てを持って慈しみ、必ず、あなたと家の助けとなる子に、立派に育てあげてみせましょう。」
「おう。」
八十敷はにこにこと答える。
鎌売は素晴らしい
こんな
……まだかな?
「あたしがあなたを裏切ったり、
だから、あたしが
あたしの心も、身体も、ずっと、
愛子夫の心も身体も、あたし一人のものです。裏切りは許しません。良いですね?」
「おう。」
八十敷は、にやけながら答える。
お互い、澄んだ心を持ち、心を一つに。八十敷の理想の
……まだかな?
鎌売が厳しい顔を緩めた。
困ったように微笑みながら、上目遣いで八十敷を見る。
「……正直、あなたが浮気なんかしたら、あたし、狂ってしまうわ。だから、そんな思いはさせないで? ね……? それで、あたしが月の印の時以外は……、
「絶対、浮気しない。
(もう、とっても
八十敷は、固い決意を持って愛しい
組み敷かれた若い
ふふ。
嬉しそうに、甘い微笑みをもらし、
「……
全ての許しを、八十敷に与えた。
枕元では、
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