第39話 最終決戦

 開幕一番、理は突風を大砲のように飛ばし、ダバスドたちの真ん中でそれを炸裂させた。それによりダバスドたちは四方に吹き飛ばされ、連携が取りづらくなった。全員に切り傷ができ、治療も遅れた。

「頼んだ。とりあえずはこれで。」

 治療の隙にフライマが炎の防壁を前面に作り出し、次の攻撃に備えたが、理はそれを上回る津波を発生させ、一瞬でそれを消した。ダバスドとリペロはそれに飲まれ、流されることとなった。外傷はできなかったが、余計に陣形が崩れ、水の中から抜け出すのに時間が掛かった。

 オルテンは大規模な詠唱を開始し、その間に雷撃を生み出し、土を柱のように飛ばして攻撃した。それを幾重にも放ち、包囲網を作った。

「汝の名は死後も伝説になっておる。永劫の魔道。いやはや見事なり…」

 理は既に戦闘の悦に入っており、その攻撃を軽く弾き、避けていた。当たってもどうと言うことは無く、何もなかったように浮いているだけだった。

「後ろ。」

 いつの間にか理の背後にリペロは回っており、鎌を振り払って攻撃した。確実に命中したはずのそれは軌道が逸れたように避けられていた。そこに透かさず同じように何処からともなく鎌が出てきてリペロに振られた。リペロはそれを受けとめ、更に深い傷を負いながら下がらされた。

「挙動が不可思議だ。どこから出した?」

 ダバスドもそれに続き、理の側面の翼に切りかかった。引っ搔き傷ができただけで、大した攻撃にはならなかった。これにも理は対応し、オルテンが生成した土の柱を使って鐘を打つかのようにそれをぶつけた。鈍い打撃音と共にダバスドは転がり、地面に何度も体がぶつかった。

「大丈夫だ。ケガはない。」

 ダバスドは立ち上がり、拳を握りしめた。今度はフライマが弾丸を何発も連射し、それらが理に向かっていった。数発は途中でどこかに消え、残ったものは弾かれ、更に残った二発が理を貫いた。丁度、翼の真ん中あたり、威力が殺され普通の大きさの弾痕二つができた。理には痛みがないのか、藻掻く様子はなかった。

「これはどうかしら…止めてみなさい…」

 オルテンは長い詠唱を完了させ、ふっと笑った。周りに浮いていたものが、理に重力が発生したかのように一気に集まっていった。それにはオルテンの魔法も混合されており、先ほどの柱だけでなく、大きな火球や氷塊までもが小石を思い切り投げたかのような速度で向かっていた。ぶつかったものはほとんどが崩れ、瓦礫となり、ごみの山を作った。それを砕く様に次から次へと当たって砕けるため、粉塵が舞い、視界を遮った。追い打ちを掛けるようにオルテンはそこに着火し、大爆発を巻き起こさせた。

「粉塵爆発というやつか。永劫の魔道、初めてお見受けするが惚れ惚れする。」

 フライマは遠くの爆発で起こった風にそよぎながら、伝説を肌で感じオルテンの方を見た。そうしている間にも機敏にオルテンの元に辿り着き、後衛としてのフォーメーションを守り、自らを治療していた。

「息あるよ。あいつ。もっとずたずたにしてやらないと。」

 リペロも風を感じながら、爆心地を見て不敵な笑いを浮かべた。リペロの言った通り、爆発でボロボロになった理が姿を現した。ボロボロになりながらも原型は保ち、核はひび割れてダメージはかなり入ってそうだった。

「世界を背負うに値する。重要な選択さえ間違えなければ…」

 悲し気な声で理が言うと、核が輝き七色の光彩がより一層煌びやかになった。それと共に理の猛攻が開始された。世界の終わりのように空から火球や雹、雷、土塊など、全てと言っても過言ではない魔法が降り注ぎ、理自身も移動し、何処からか殺すための何かを出し、ダバスドたちを襲った。理は特殊なバリアのお陰で頭上からの自身の攻撃を耐え、技に溺れるようなことはなかった。

「集中できやしないな。」

 ダバスドとリペロは迫ってくる理の近接攻撃に何とか応戦できていた。空襲はオルテンがある程度撃墜し、さらには味方を守る防壁までも展開していため、ダバスドは流れ弾を弾くだけで済んでいた。他の皆も、オルテンだけに頼らず、自分の持てる力を持ってそれらに対抗した。フライマに関しては、弾丸の跳弾を利用し、理に当ててから撃墜するなどの技を見せ、不利を覆す努力をしていた。

 それでも、核以外の場所にはほとんどダメージが通らず、このごたごたの中でそれを的確に狙うことは難しかった。魔法も治まるどころか苛烈さを増し、地上からもレーザーが放たれ、槍や剣が飛び交うなど地獄絵図に変わっていった。ダバスドたちは致命傷を避けながら戦い、回復が追いつかない傷を負っていく事になった。

「お痛がすぎるねー。もう死んでくれてもいいんだよ?」

 リペロは舌打ちをし、タンクらしくダバスドたちの前に立ち、できる限りの攻撃を受けながらも、鎌を大きく振りかぶり、そこから斜めに割いた。その軌跡にあった理の体を綺麗に割り、核に届いた。その切れ目に彼女は例の水を噴射し、隙のない連撃を終了させた。

「やっぱだめかー。耐性あるわ。」

 リペロは理の次の攻撃を読んで、崩すようにして体を低くし、鈍く大きな薙ぎ払いを避けて下がった。彼女は残念そうにしているが、またも深く核にひびが入り、呆気なくも終わってしまいそうだった。

「おお、汝もいい目をしている。」

 リペロのお陰で猛攻は落ち着き、最後までダバスドたちは攻撃を凌ぎ切った。しかし、こちらも傷が深く、オルテンも大量の詠唱に加え、密かに次の手を残していたため、メンバーの完全回復はできなかったのだ。フライマも反撃しながら自身に治療を施していたが、ダバスドたちにそれをする時間は設けられなかった。

「次はどの手だ?オルテン。やるぞ!」

 ダバスドはオルテンに考えがあることを見通し、盾を持つ手を高く挙げ、鼓舞した。戦闘の本能が彼の不屈を呼び覚まし、そうさせた。

「言わないでよ…とっておきなんだから…まあ、もう手遅れだけど…」

 オルテンは彼の二つ名を思い出しクスリと笑い、一斉に魔導書を開いた。既に空の彼方には空一面に広がるかのような巨大な魔法陣が展開され、魔法が放たれる準備が整っていた。

「私も汝らを仕留める大魔法を用意していたが、仕方ない、あれに使おう。」

 刹那、莫大な威力を感じ取り、見上げるように体を動かした理は、大地が揺れる程の発射体を天空に打ち上げた。オルテンの魔法は降ろされ、まさに理だけではなく、ダバスド達までも巻き込んで全てを破壊するはずだったが、彼方でぶつかり合い、空の端まで届く爆発を生み出し、その衝撃は地上にまで届いた。体が飛ばされるような熱風が辺りを包みながらその勢いを抑えていきつつも、轟音が空から降り下ろされ、その威力を物語った。そんなものが止められ、絶望的な状況のはずが、オルテンは一息ついていた。

「流石に…あれは私でも守れないからね…到達してたらみんな死んでたわ…」

 それは彼女の意図の範疇だったが、実のところ、理の多大なる魔力を感じ取り、その魔法を多きくし、迎撃させざるを得なかったのだ。しかし、彼女の次の手が潰えたのは確かで、この状況をそれなしで覆さなければいけなかった。

「前向きに考えよう。死なずに済んだ。そして、お前の攻撃は大体わかった。」

 ダバスドは事の重大さに気づいたが、気持ちを切り替え、リペロの方を向いた。黙ってっリペロが頷くと共に彼らは理の方へ接近し、二人で近接戦闘を挑んだ。

「見切ったと?何処を切っておる。」

 理に届くはずの刃の数撃は、フライマが放った弾丸のように途中で消え、空を切ることとなった。それに加え理が振る攻撃も何処からくるかは予想がしづらく、触手にも殺傷性があるため、歴戦の戦士二人で掛かっても手数はあちらが上だった。次第にまた傷が増え、疲弊していった。オルテンもフライマも黙って見ていたわけではなく、加勢していた。それでも、後衛には新たな魔法が放たれ、それも手数で勝っているため有効打はなかなか届けられなかった。 

 四人の攻防が続き、押されつつも、ダバスドとリペロの刃が届き、核を傷つけ、オルテンの魔法が当たって痺れさせ、フライマの弾丸が貫通し、触手を何本かもぐなど、着実に駒を進めていた。理もダメージを全員に与えていたが、どちらが先に倒れてもおかしくない状況なため、打開策に出た。至近距離の二人に氷をぶつけ、仰け反らせ、向かう弾丸や魔法は無数のレーザーで焼き切り留めてみせた。氷には雷が纏っているため、ダバスドたちは大きく体力を失う形になった。その中で

「氷なら俺も使えるんでな。」

 とダバスドが地面を蹴り、もう一度理に接近した。彼は相手の攻撃に自身が生成して氷をぶつけて衝撃を減らし、電撃に耐えながら突っ込んだのだ。あまりの速度の切り返しに理は対応できずに、剣は核を刺し貫いた。

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