第36話 牙城
「気を付け給え。本当に君たちは成長したな…会えて幸運だったと改めて思うよ。最初は…いや、この続きはまた再開してからにしよう。」
決戦の日、掃討奮起と他の組織の幹部は討伐者一行を見送り、その勇姿を心に刻むこととなった。ナルターはダバスドたちの肩を叩き、微笑んだ。中での戦闘を見届けることは出来ないが、せめて行きしなは厚いもてなしをしようという事だった。
「ええ、言われなくても。他の皆さんもありがとうございます。」
ダバスドは頷き、それに応えた。目の前にある遺跡を見上げ、深く息を吸った。再誕の牙城と呼ばれるこの場所は、未知の素材で出来た朽ちた城で、外観に反し中は複雑な機構にはなっていなかった。入るにはマナが関係しているようで、常人のモノでは門にある膜を突破できず、他のどの手段を用いても、壁を壊すこともできず、膜を破ることもできず、内部の調査は不可能だったわけだ。ここは特殊な観測によって理の動向を確認できていたが、それ以上の情報は得られず、知りえない情報がごまんとあった。よって財団は余力があれば内部のレポートを書くことを推奨し、ダバスドたちは向かわせた。
ダバスドたちは内部に簡単に入ることが許され、財団すら知らない未知の世界に足を踏み入れた。ダバスドたちは掃討奮起や他の用意した至高の装備を身に着け、この場に挑んだ。ダバスドのレリックは繊細な糸と革に深緑の不思議な貴金属を練りこんだブレスレットで、「攻撃を受けるたび、10秒間近接ダメージが+50パーセントされる。」という効果のあるものであり、ダメージをカットしつつ攻撃を行う彼にはぴったりのものだった。(その他については割愛する)今回選ばれたのはダバスド、オルテン、フライマ、そして、「リペロ」という女で、当然英雄な訳だが回廊に名が乗っているものの、オルテンやフライマのように自分を語るのを好まないため、謎は多かった。しかし、財団が今回の件を受けさせたというだけで、その強さは語る必要もないのだ。彼女はタンクを務めていたが、ガタイが特別いいわけでもなく、平均的な戦士の体系をしていた。場違いに学生服のような恰好をし、大鎌を得物にしているかなり奇抜な奴だった。
「いいねえ。伏魔殿って感じで。中も今まで見たこともない材質で固められてる。」
リペロは薄ら笑い、鎌で壁を引搔いて独り言を言った。作戦の遂行においてダバスドたちは互いの事を多く知る機会があったが、このリペロという女は、どこか他とは違いコミュニケーションを得意としていなかった。人見知りが強いというわけではなく、普通に会話をすることができる反面、価値観が噛み合わないことも多かった。根っからの天才肌で、多重人格のような振る舞いを時折見せ、正気とは思えない一面もあった。故にダバスドたちも仲間としてのコミュニケーションは取るが、これが終わったら一杯。などと誘える様子でもなかったのだ。
「ええ、でも構造はシンプルだわ…階段と部屋が続いているだけかしら…」
オルテンはその独り言にも反応し、答えた。彼女にリペロの絡みづらさを気にしている様子はなく、普通に接していた。ダバスドたちもあまり意識するから余計に応答が取りづらいのかもしれないと感じた。それは彼女がただ疎いだけかもしれないが。オルテンの言った通り、城の外観と中の空間は一致せず、一階は長い廊下があるだけで、奥に階段があり、それ以外はなにもなく、行くところもなかった。牙城と聞いて中の探索にも時間が掛かることを想定し、かなりの量の食料などを持ち込んだが、その心配は消えてくれることとなった。
階段は壁に囲われた踊り場のあるもので、二つほど踊り場を通過して上ると、次の部屋へと繋がっていた。そして部屋はより異質で、内部にある空間とは思えない自然的な物や、人工的でもすこぶる広かったりした。リペロは伏魔殿と表したが、実情はアポカルが溢れるほどいるわけではなく、限られた個体がここに住んでいるだけの場所だった。
戦闘は部屋に入ってすぐに起こった。アポカルが人工的な岩が続く場所にポツリと居り、こちらの存在に気づき、目を覚ましたようだ。このアポカルはとても無機質な見た目をしており、幾つもの筒をくっつけて出来上がった人形のような形をしていた。
「フライマ。プロダクターを思い出さないか?特殊個体はなにか意味があるのか。」
その姿にダバスドは思い出した。自然的なものではなく、人工的な見た目に近いアポカルが居たことを。この場所が普通ではないことからもこの個体に特別な符号があると思えてならなかった。フライマも思い出し、深く頷いた。
「プロダクターからのサンプルには奇妙な結果があった…ここ最近にでき、今までのアポカルが生存できなかった環境でも生存できるらしいわ。明らかに殺傷性を高めただけじゃない何かがあった。未知の素材だからそれ以上の成果は挙げられてないけど…」
オルテンもこれには何かの意味があると思い、話した。限られた個体が特殊な進化を遂げるということは自然界でも良くある話だが、この城で出会った最初の個体がそうであったためか、引っかかる点は多かったのだ。
パイプのような体を伸縮させながら近づき、鋭利に尖った体の一部を自在に動かして攻撃をしてきた。素早く、殺す力はあったが、今のダバスドたちには通るものではなかった。
「やはり、同じような攻撃。共通点は幾つも挙げられるな。」
フライマは弾丸を放ち、その体を突き破った。気のせいか以前よりも威力があり、範囲も大きかった。向こうが見通せるほどの風穴が、相手にできた。だが、直ぐに傷は縮まり閉じた。相手はその状態から爆発し、パイプを四方八方に飛ばした。岩に当たったそれは豆腐を着るかのように貫通し、崩していった。ダバスドたちの方に飛んできたものはオルテンか巨大な防壁を張り防ぎ、貫通したものはダバスドたちが魔法を使い、撃墜した。全てをいなすと同時にリペロは素早く動き、相手を大鎌で一刀両断し、水を前方に放った。水に当たった切り口から溶けるように消滅し、最後はパイプのような素材だけが残り、生物であった痕跡が消えて勝負は終わった。
「あなた…確か「死の雫」だったかしら。今の水魔法?興味深いわ…」
オルテンは小さく拍手し、リペロに聞いた。自分では使えない魔法に強く惹かれていた。それの正体も知らず、好奇心は強く刺激された。
「そう。消滅の印。詳しくは教えなーい。」
リペロはまたも薄ら笑いを浮かべ、鎌についた体液を払った。あまり親睦を深める様子はなく、それだけ言うと歩き出した。彼女にもここに来た大きな意思があったが、それを形にはしなかった。
「やっぱり変わってるな。行こう。」
ダバスドは鼻で笑い、他の皆にリペロの後を追うことを促した。
同じような構造が続き、ダバスドたちは上へと昇って行った。全ての部屋にアポカルが居たわけではなく、広いわりに何もない部屋など、何のために存在しているかは追求すれば切りがなかった。また、アポカルが居ても死闘が生まれることはなく、苦戦はしたり、しなかったりで、命の危機が迫るようなものはなく、特筆すべき点も少なかった。彼らの連携が完成し、魔法も程よく消費するだけだった。しかし、そのどれもが財団が特殊個体と呼んでいるもので、自然的な要素が多い個体は一つもおらず、謎は深まった。そんな風に最終決戦とは裏腹な戦闘が続き、どんどん歩みを進めて言っていた。
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