第34話  最終極地

 ダバスドたちが街に帰ってきた時、本部はドタバタとしており、とてもお祝いムードではなかった。待機室でも財団職員が往来し、忙しそうに働いていた。

「これは、どういうことだ。あの、何かあったんですか?」

 到着と同時に受付にダバスドは聞いた。疲れていたがただ事ではない雰囲気があったからだ。自分たちの居ない間に、大きな災害に見舞われていたかのようだった。受付の女性はペンを走らせながら

「ええ、何やら緊急事態の様です。私も詳細はわからないのですが、財団も大きく動く必要があるみたいです。今は災害レベルの新訂を…」

 と面と向かって話す余裕も無さそうに答えていた。ダバスドたちは何が起こっているのか予想がつかないため、とりあえず見識のあるものを探すことにした。部屋から出ると廊下でフライマが財団職員と話しているのが見え、職員は話し終えると去っていった。

「フライマ。久しぶりだな。どうも様子が変だ。なにがあった?」

 ダバスドは何か知っていそうなフライマを頼ることにし、久しぶりの再会を喜ぶのを差し置いて聞いた。

「おお、これは。その節はどうも。…いや、詳細は知らないが、どうやら人類滅亡レベルの危機らしい。それがしや、驚異的な変異体を討伐するだろう者たちに後で声が掛かるかもしれないそうだ。ひょっとして君たちか?」

 察しの良いフライマは、ボロボロになりながら帰還するダバスドと永劫の魔道を見て、ニヤリと笑った。この男も、表立っていないがとんでもない偉業を成し遂げた人物であった。英雄の中の英雄が集い、戦わなくてはならないということだった。更に上をいく存在を自分たちが相手にしなければならないかもしれないという話に、ダバスドとオルテンは苦虫を噛み潰したような顔を見合わせた。

 夜には招集が掛かり、棺に入ったように寝ていたダバスドたちは疲れがとれないまま、緊急事態だという理由で呼び出された。ナルターはが帰還し、人類存亡を掛けた会議が始まった。

 秘集情報局の大きな会議室、リュースの大プロジェクトの時にも使用された場所。中には多数の専門家、財団の管理部門に属する全職員、他の財団、国の重役までもが揃い、卓を囲んでいた。前には大きなスクリーンがあり、ダバスドたちもそこに招かれた。

「最高機密事項、「ファイル:ブラインド」に属します。この機密を守り、他に安全を保障することをお誓いください。本題ですが、我々はずっと回帰についての調査をして参りました。たった昨日、回帰の始祖、理がもうすぐ目覚めるということが判明しました。場所はエリア100、「再誕の牙城」です。」

 ナルターは前に立ち、説明を開始した。形を取るのならランダの仕事なのだが、有力者としてこの場を仕切ることを任されていた。そして、今の情報を耳にした会場は一気にざわつき、動揺を煽ることとなった。ダバスドは何のことかさっぱりわからず、話についていけてなかった。

「落ち着いてください。我々にも手はあります。少々お時間をください。討伐者に今回の件をまずは説明しなければいけませんので。オルテンはもう知っていると思うが、理というのはアポカルだ。これは我々がアポカルを掃討する最終極地でもある存在で、被害は人類の滅亡にまで至る。我々の観測では千年と少しで目覚める想定だったが、そいつが今まさに生き返ろうとしているというわけだ。これを討伐することができれば我々の安全が保障されるのみならず世界中のアポカルに大打撃をもたらし、長き苦悶から世界が解放されることとなるのだ。そして、ファイル:ブラインドとは我々財団の全てといっていいほどの情報を扱い、これ以上ない機密性を扱うものだ。」

 ダバスドの置いてきぼりをいい形で裏切り、ナルターはしっかりと説明した。丁度今日、人類を救ったはずが、またもこんな話をされたため胡散臭かったが、アポカルに終止符を打つという説明が筋を通っており、それも自然に消えていた。

「我々はこの厄災を払うに十分な可能性を有しています。彼らはわが財団の切り札です。彼らはオペレーション:アンビシャスに終止符を打ち、こちらはオペレーション:エクスパンションを、こちらはオペレーション:ディスクライムを終わらせたものです。つまり、我々が今抱える大きな問題は残すところ一つとなった訳です。これが終われば、そんな問題が次から次へと降りかかることもなくなります。なので、良い兆候とも言えるのです。」

 ナルターは他の組織に向き、英雄たちの説明をした。どれも甚大な被害が及ぶアポカルへのプロジェクトだったため、期待できるということは伝わった。中でもオルテンは、数々のプロジェクトの進行に顔を出しては優秀な研究結果を残し、なおかつ討伐者として世界を名乗れる強さがあることは周知の事実で、皆の信頼は厚かった。それでも、ナルターはどこか、人類に終わりが来ているということを深く考えさせない様に話しているようだった。このプロジェクトを始めた時、その被害と対処の難しさを知らされた者たちは絶対に恐れを抱くと解っていたからだ。

「今までのプロジェクトとはわけが違うが、そこはどうお考えかな?理を止めることができなければ、その時点で人類が一瞬で亡き者になる。バックドアも意味をなさない…」

 前の方に座っていた男が手を上げ、質問をした。この男は他の財団のトップで、掃討奮起とは一枚も二枚も噛んでいた。この男の話を要約すると、理を倒すことができなければ無条件で人間が消滅し、アポカルの時代が到来するというデータが既にあったため、シェルターの類で人類の一部だけでも助かり、命を繋いでいくようなことは出来ないということだった。これまでのオペレーションで滑り止めとなっていた、そういう二次的なプランが一切取れないのだ。

「残念ですが、止めるしかありません。負けは即ち死、いやそれ以上。あと千年もすればもっとよい考えが浮かぶかもしれませんが、倒すか倒さないか、それ以外ありません。我々はこのプロジェクトにおいて妥協案というものは持ち合わせていません。ですので、あなたにもできる限りの協力をしてもらいますよ?」

 対処が一つしかないならそれをするまでと言う、財団らしい鋼の意思の元対抗することが決定していた。要はこの会議は事後報告のようなもので、他の組織も生き残るために協力するという選択肢しか取れないのだ。

 会議は長く続き、情報の共有や、作戦遂行に向けての計画などが練られた。だが、情報はシンプルで、理という存在が牙城に巣食っているくらいのことしか分かっていなかった。牙城内は財団が入ることができず、経過観察もすることができていなかったからだ。他の財団の力を借りても、中に入ることができないことは後に分かった。その他の組織は掃討奮起に物的支援及び、過去のデータを共有することを明かし、お互いの機密事項を見せなければいけなくなった。財団総出どころか財団を取り巻く全ての組織が肩を貸し、それを討伐するということに一丸となった。

 討伐者に戦闘データは与えられないが、干渉できることは分かっていたのでそれを伝えられた。それだけで勝ち目はあり、ダバスドたちにとっては強制的な話ではあるものの、行くだけの意気込みは生まれることになった。なぜなら、財団は討伐の成功と共に最も望むものを与え、生涯の支援をすることを約束したのだ。オルテンは明かしていない、孤児院を設立するという夢はもうすぐそこまで来ることとなった。他の組織も討伐者に専門性を追求したレリックや装備を提供することに同意し、技術の視野は格段に広くなり、もはや財団としての活動の域を超えていた。

 人類に永遠の安寧を届けるべく、最後の戦いに備え、人々の恐怖や不安は憤りや勇気に変わっていた。財団に非協力的だった組織の中でも今回の事を小耳にはさみ手を貸そうと尋ねる者もいた。それだけ壮大で、全てを賭けてもいい存在だったのだ。

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