第33話 妨げ
秘匿されているエリア、ある調査の結果を知ったナルターは決して討伐者には見せない焦りを見せ、取り乱していた。
「まずい、まずい、まずい。あと千年も先のはずだろう。「回帰」がこんなにも早く訪れるなんて…早く対抗しなければ。」
新たなる危機を前に、これまでにない程彼は動揺していた。周りでは部下が忙しそうに駆け回り、一つでも多くの情報を得ようと奔走していた。
「連絡があって来たが、もうなのか?」
ランダが急用で駆けつけ、ナルターに聞いた。財団の最終決定権がある彼も黙っていられない案件で、財団職員全てがその事実に躍起になって居た。
「ええ、より良きモノの時代が到来しようとしています。我々の根幹、財団の究極の目的、それが潰されようとしています。」
ランダの元に駆け寄り、ナルターは報告する。彼も重要な役職で、全てをランダに委ねることはないが、財団総出で立ち向かう必要があったのだ。
リュースも口にしたより良きモノ。それがアポカルの別名だ。これは古くからある言葉で、財団が命名したわけではない。元来、地球はアポカルの住まう所で、新たに生まれた知的生命体である人間がそれを絶滅寸前まで追いやり、今がある。人間とアポカルの生存環境は真反対といっても良いくらい違うもので、共存は不可能だった。よって力ある人間が独裁者となり、自らが住める環境に仕立て上げたのだ。より良きモノというのは、この地球にとって最も安定している環境がアポカルの住む環境であるため、そう呼ばれている。地球からすれば人類こそ悪で、アポカルが未だ現存することは喜ばしいことなのだ。人間がいる環境と、アポカルのいる環境のどちらが長く繁栄を続けられるかは一目瞭然で、アポカルが大多数を占めている方がより良い未来があるのがこの世界の真実だった。
今回行われる回帰というものはこのアポカルたちにとっての地球が取り戻され、人間が死滅するという事を指し、詰まるところ人類の滅亡にも当たった。より良き環境に全てが変えられるということでもある。
「「理」だな?それを無力化すれば、我々の勝利だ。当然、討伐者を派遣するだろう?いや、それしかあるまい。」
その回帰の元凶はこの地にいた。今しがたその大本が千年の観測を吹き飛ばし、もうすぐ姿を現すというのが発覚したのだ。回帰を起こすそれは、人類がアポカルを絶滅の淵へ追いやった時に眠りについた個体で、眠りの中に居る間はどうやっても干渉できず、滅ぼすことができなかった。他のアポカルもそれが居る限り順次復活するものもいるので、限りなく個体を減らすことはできても撲滅できなかった。よってこれは人間にとっての大チャンスでもあり、倒すことができれば、自分たちの平和をほぼ永久に約束される事柄でもあった。だが、それはあまりにも早すぎるため、人類の対抗策は乏しかったのだ。
「ええ、負けは即ち滅亡ですからね。放っておくわけにはいきませんよ。既に力あるものには目をつけています。その他は…彼らがオペレーション:アンビシャスを終わらせてくれているなら派遣します。あちらで負けていたら事は相当に悲惨ですが。」
自分の担当をしっかりと意識し、ナルターは答えた。自分が討伐者を統率し、それに依頼を出す責務があるのなら、この人類を救う第一手を打つのは彼自身だったからだ。焦りを抱えたまま、ネクタイを締め直して馬車に乗って街に戻っていった。
今回、人類の誕生からこの時代までアポカルは確かに存在したのに、その間何があったかや、財団の結成についての経緯についても語りたいが、また機会があればさせて貰おう。
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