第21話 リベンジ

 数日後、既定のメンバーが揃い、リベンジの日を迎えた。壊れた装備は改め、プロダクターを分析し、作戦を立てた。モータはダバスド、コープルに合わせ、会議にも参加したが、フライマだけは一度も顔を見せることなく、依頼を受ける時だけ来ればいいだろう。と積極的に討伐に関与することは無かった。ダバスドたちはレリックも適したものにし、ダバスドは魔法の効果時間を延長するものにし、コープルはポーションが飛び散るようになるものを装備し、より集団に、よりプロダクターに特化した構築に立て直しをしていた。数日間ではあるが、ずっとその事ばかりを考え、必勝を担いで赴くため不安要素は一つずつ消していっていた。

 当日は人数がきちんと揃い、予定通り例の墓所へ向かう事となった。モータは大きな盾に、ランスを装備し、タンクらしいの見た目だった。防具も厳重で、鉄に覆われ、今回の戦いにおいても不備はなさそうだった。しかし、フライマに関しては軽装で、動きやすいとは思えない長いコートを着用していた。武器はマスケット銃で、馬車の中でそれを抱えていたが、ダバスドたちにはそれが何かは判別できなかった。

「フライマ。お前が持っているそれはなんだ?」

 火薬を使った武器と言うのもまだ浸透しておらず、銃だということすらダバスドは知らなかった。

「マスケット銃だ。火薬を使ってこいつを飛ばす。まあ、それがしは火薬をほとんど使わんが…」

 フライマがポケットから取り出したのは丸く黒い鉄の球だった。火薬と言うものを耳にしたことのある他三人は、須らく興味を示した。

「へえ、火薬っていうのは武器にもなるのか。そうだコープル、顔も出さなかったこいつに、今回の作戦は伝えるべきじゃないのか?」

 その話題に持ち切りになる前にモータは思い出し、普段通り皮肉を混ぜてコープルに話しかけた。フライマは作戦会議にも参加していないので、これは二度手間だった。だから、モータの皮肉も正論に近い。

「そうだね。前回は押し寄せる大群を切り開きながらプロダクターに接近した。今回もそうなるけど、僕が拡散するポーションで、横からくる奴らは十分に足止めができる。そのうちに、ダバスドとモータが先陣を切ってプロダクターに接近する。後衛の僕たちもそれに続き、敵の後ろからの接近を阻む。そして、ここからが重要だ。プロダクターは機敏で攻撃も同様で殺傷性が高い。接近したら圧倒的な火力をぶつけ、直ぐに終わらせる。前の二人が横にずれるから、後衛の飛び道具を使える僕らがその隙間から攻撃を差して隙を作る。流れはこんな感じだね。後、プロダクターは触手を素早く収縮させて鋭利な物体を自在に操るから、常に動けるようにするんだ。突きに関しては見切ることは難しくない。」

 コープルは作戦の概要をフライマに伝えた。実際には様々な点を考慮し、この作戦に行き着いたわけだが、簡略化されていた。ダバスドは攻撃を見切られ、一対一の勝負が無理だと判断し集団戦へ、後衛への攻撃はある程度対処が簡単だから分かれて戦う様に。といった具合に変化した。奇しくもいつの日かの陣形が最適解となり、作戦の主要部分となっていた。

「道を開くのは造作もない。畳みかけるというならそれがしに任せてくれ。案ずるな。実践すれば何を言いたいかはわかる。援護も問題なく行おう。」

 フライマはコープルの話を聞き、不適に笑って三人に答えた。この男が英雄に最も近しい者だという財団側の明言があったため、三人は顔を合わせるだけで、それに対しての質問は控えることにした。

 そして忌々しき墓所へ辿り着き、プロダクターの生息地へと足を運んだ。前の様に道中で残党に絡まれることもなく、景色も代り映えのしないもので事は優に進んだ。

 プロダクターは既に前と同じ場所で踊るように浮遊していた。体は完全に再生され、初見と同じ姿でそこに居た。ダバスドたちがそのエリアに辿り着いた瞬間、また死肉が溢れ、その空間を満たした。前回よりも明らかに早く、警戒心も増しているようだった。

「何体貫けるか、よく見ておけ。」

 涼し気な顔をし、慣れた手付きでマスケット銃を前に構え、フライマは迫る魑魅魍魎へ引き金を弾いた。既に弾は装填されていたのか火薬が爆発する轟音と共に、その弾丸は前から来る肉の壁を貫き、当たった敵は倒れたため、その弾道の行く道だけぽっかりと穴が開いた。

「すげえ。とんでもない威力だ。」

 モータがその光景に目を丸くし、口を開けていた。するとリロードもせずに次の弾丸を飛ばし、道の幅を広げていった。

「本来ならば、銃の先から弾を入れて撃たなければならないが、これは「魔弾」だ。行こう。ぐずぐずしていたら門が閉じてしまう。」

 以前は死に物狂いで全身を余儀なくされたダバスドたちだったが、今回はいとも簡単に道が拓き、アボーブへと続いた。

 驚きながらダバスドたちは前に進み、プロダクターに近づいていった。勿論、フライマの弾丸だけで全ての敵を倒したわけではなく、横からは、ひいては開いた隙間を埋めるように前からも敵が押し寄せていた。それを払い、倒し、押しのけて向かっていくのだ。

 そして、ようやく目の前までたどり着き、またも端まで追いやることに成功していた。

「君たちは少し黙っててね。」

 四対一の優勢を作るため、コープルは掻き分けてきた敵の群れに何度かポーションを叩き割り、激しい音と閃光を発生させ、それらの身動きを封じた。

「今だ。行くぞ!」

 ダバスドは怒号を上げる。ずっと抑えていたカレンへの思いが吹き上がる。もし、生きているなら、そう言う思いだけが彼を平静にしていたのに、きっと無事ではないという現実が、この敵を前にすると確かに思えて仕方なかった。敵がどれだけ早く動けようと刺し違えてでも、このプロダクターを絶命に追いやることも考えた。

 ダバスドとモータがプロダクターの横に着き、後衛への射線が通ったことで、作戦通りのフォーメーションが完成した。

「モータ、こいつはかなりの手練れだ。その盾なら問題ないが、絶対に攻撃を食らうなよ。」

 この前の惨劇を繰り返さぬよう、ダバスドは警告する。追い詰めて囲んでいるというのに、プロダクターはうねうねと触手を動かせ、余裕なようにも見えた。そして予備動作もなく、その触手を左右に振り回し、立方体をぶつけようと試みた。ダバスドの方のそれは、空を切ることとなったが墓所の鉄柵に当たり、竹を切るようにそれらは崩れた。一方、モータは盾で受けることに成功したが、その鉄板の下半分程がごっそりと持って行かれていた。

「確かに、それに当たったら終わりだな。」

 瞬時にモータがランスを腕に突き刺し、ダバスドも胴へ剣を突き刺した。しかし、ダバスドが深く突いた剣は蠢く触手に強く握られ、引き抜くことができなかった。その攻撃は致命傷には至らず、こちらが隙を作ることとなった。足の触手で、ダバスドの足を取り、膝をついて身動きが取れない状態になったところに、立方体が振り下ろされた。頭の上からそんなものを食らっては、ミンチになってしまうだろう。

「気を付け給え。それがしの手がなければ死んでいたぞ。」

 寸での所で轟音が響き、弾丸が触手を貫通し、立方体がプロダクターの体から分断され、下に落ちた。命拾いをしたダバスドだったが、力なく落ちたにも関わらずキューブは背中を裂き、切り傷を与えた。致命傷ではなかったが、深く、えも言われぬ激痛が走る。

「ふざけやがって。お前は生かしてはおけないな!」

 その痛みを力に変えて叫び、拘束されていた剣を両手で無理やり上に押し上げ、掻っ捌いた。触手は緩み、剣が手放された。

 それと同時に全員での総攻撃が始まったのだが、死の予兆も見えず、相手の熾烈な攻撃が続くだけだった。相次いで矢や槍が触手を刺していたが、絶命しなかったのだ。。

「もう一方の腕も頼んだ。」

 ダバスドはより深く切りかかるため、フライマにそう指示を出した。フライマが目を細めて引き金に指を掛けると、弾丸は一直線にプロダクターの腕に向かっていったが、それを学習したプロダクターは腕をくねらせ、それを躱した。今度はその反動のままそれを伸ばし、フライマにぶつけようと試みた。

「動け!」

 コープルは動きそびれたフライマに命令し、死の予感を知らせた。

「面白い。動くとも。」

 フライマがそう言うと、何処からともなく弾丸が帰ってきて、伸びた触手を貫いた。その急襲に対応できるはずもなく、先ほどの様に立方体は分断されることとなった。伸びた反動のまま、フライマに向かう立方体だったが、それをヒラリと躱しコープルに軽くウインクした。

 狙いどおり腕を両方失った好奇をダバスドは逃さず、切り開いた触手の群れに足を突っ込み、駆け上がるようにしてプロダクターを押し倒した。そのまま馬乗りになり、首の部分を跳ねた。それでも動いていたため、跳ねた部分に火を纏わせた剣を突き刺し、中で再点火し、内側から炙った。触手だけでは殺傷力はなく、プロダクターは悶えるようにそれらを動かしながら命を散らし、ついには動かなくなった。同時に、後ろにいた残党も灰のようにバラバラになり、復讐劇は拍手もなく終わった。

「よくやったね。でも最後のあれは無茶だ。まだどんな攻撃をしてくるか分からなかったのに。」

 コープルが駆け寄り、傷口にポーションを掛ける。これくらいの傷なら、フライマに頼らずともコープルでも直すことができた。

「ああ、判ってる。判ってる…」

 ダバスドは力が抜け、静かに返した。カレンの命を奪った憎き存在のはずが、なぜかそれ程の憎悪を感じていなかった。未だ希望があるという事実を差し置いても、お前のせいで。なんて言葉は出てこなかったのだ。今では自分がカレンを思い、それを失った悲しみだけが胸を覆っていたのだ。だからこの死体に剣を何度も突き立て、復讐の怨嗟をぶつけることもしなかった。

「どうして行こうと言わなかったんだ?そうすればアイツがあんなに悲しそうにすることも…」

 ダバスドとコープルが向き合っている陰で、モータはフライマに尋ねた。それは当然の疑問だった。きっと最初からフライマが加勢していれば、犠牲はもっと少なくすんだはずのものだ。

「それを言っちゃおしまいさ。そもそも多数で行けば良いとか、英雄だけで解決すれば良いとか、そういう話と同じだ。」

 遮るようにフライマは答えた。財団は四人以上がいるとレリックや魔法の効力が不十分になるという理由を挙げているが、それこそ不十分な証拠で、もっと追求すれば効率化はできるはずだった。それをわざわざ少人数でこんな危険なモノと戦うというのは、はなからおかしな話で、それをつついても仕方がないとフライマは理解していた。

「だけど、あれは結構な深手みたいだぜ。いや、心がな。」

 珍しく、モータはダバスドに憐れみを見せ、フライマにも同情を誘う言葉を投げかけた。

「分かっている。しかし、いつかは辿る。それがしらは、人の心を持つべきじゃない。本当に強く、何物にも負けたくないなら。だが、それができぬというのが人間だ。だったら、経験するしかない。それがどれだけ辛くとも…そしてそれから逃げたらその時点で戦えなくなるのがこの世界だ。」

 フライマは孤高に立つ人間らしく、高みに居るような言葉で返事をした。彼にも憐れみの感情があったが、それを形にし、肩を抱き合って涙を合わせて行けば、いつかどうなるかは良く知っているのだ。

「立派だな。皮肉じゃねえよ。」

 モータは感心し、この男が英雄になるのも頷けると感じた。また、今の話を聞いて、項垂れるダバスドが自ら立てるように放っておくのが自分にとっての最善だと思った。

「帰ろう。」

 コープルが立ちあがり、話し合う二人に声を掛けた。黙って二人は頷き、大賞首と共に帰ることに賛成した。

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