第19話 敗走
目を覚ました時、ダバスドは墓所の入り口に寝かされていて、コープルが傍にいた。既に帰還の狼煙が挙げられ、その到着を待っているようだった。コープルはダバスドを死に物狂いで此処まで引きずり、連れてきていたのだ。
「何をした。」
起きたことに気づいたコープルに、喧嘩腰でダバスドは言い放った。
「スタンポーションを投げた。もう勝ち目などなかった。」
コープルは冷静に、自分の行ったことを言い、事実を答えるだけだった。
「ふざけるな。お前はあの状況で、のこのこ逃げ出す選択をしたのか?」
ダバスドは引き下がることなどできなかった。目の前にいる男のせいで、自分の愛する人を救う、一縷の望みが消されたのだ。追うことができれば、安全を確保できたかもしれないのに。
「勝てるとでも思ったの?君は左腕を使い物にならなくされて、辺りは死肉の山。そんな状況で戦っても死ぬだけだ。逃げることすら難しかったんだぞ?」
コープルの意見は正論だった。プロダクター自体が虫の息だったわけでもなく、ましてや負傷している状態で倒すのは困難を極めていた。
「そうじゃない。俺は…いや、お前は仲間を失って、それでもいいと?」
ダバスドはカレンの事を告白しようと思ったが、できなかった。本当はカレンのことで胸がいっぱいだった。勿論アインツを失ったことは悲しかったが、愛する人を見殺しにし、帰ってきているという事実だけは許せなかったのだ。
「問題はそこじゃない。ただ負けると解っていて、命を粗末にすることが間違いなんだ。仲間が亡くなるのは悲しいよ。だけど、同じ戦場にいるなら覚悟しなければいけない事実だ。」
コープルも折れることなく意見を通す。それを聞いても自分の真意を伝えられないダバスドはなんとかして食い下がるしかなかった。
「死んでいった仲間が救われないだろ。だったら最後まで戦って、死んだ方がいいだろうが。」
ダバスドは自分の中の感情を正当化するため、今自分がしたい衝動をそのままコープルにぶつけ、胸倉をつかんだ。生きがいを奪われ、それに楯突くことすらできないなら、死んだ方がましだと。
「仲間っていうのは互いに助け合い、間違った時には正してやるものだ!相手のために死ぬ?君は一度でも仲間に死んで欲しいと思ったことがあるか?」
コープルはダバスドを思い切り殴り、諭した。感情的ではあったが、友人としての最良の行動を取っていた。コープルがこんなに激情したことはなく、それはダバスドを強く刺激した。
「分かってる!この胸の収まりの悪さはどうしたらいいんだ…それを止められるとでも…」
未だ胸倉を離せずに、ダバスドは涙をこらえてコープルに働きかける。この男への怒りも収まらなかった。こちらからも殴り、収束できない喧嘩へと発展してもおかしくはなかった。拳を握りしめ、感情は昂ぶったままだった。
「仇は打つ。絶対に。僕らはただ負けたわけじゃない。だから、今度は勝てるように準備をするんだ。」
ダバスドは拳に力を入れたが、コープルも歯ぎしりをし、感情を抑えていた。時に冷酷にもなるこの男も、負けたという事実だけでなく、仲間が死んでいく辛さも同時に抱えていた。それを、愛しているからその感情が上だとか、偉いとか、そう言う理論で責め立てるのは正に暴論なのだ。アインツの死とカレンの死は同等で、それに復讐を乗せるかは別問題だ。そのコープルを見て、ダバスドの怒りは引き、自分の我儘を押し付けているのだと気づけた。
「殴ってすまないな。僕は報告に行っておくから君は休んでいてくれ。カレンの失踪届を出しておく。もしかしたら生きてるかもしれないし。」
ようやく胸倉を離されたコープルはダバスドの肩に手を置き、優しく言った。ダバスドは本当に良き友を持てたと思えた。カレンへの未練は収まりを見せないが、今は生きているという薄い望みに賭けることができた。もし、もう一度再開を果たせたなら、その時はこの胸にある彼女への思いを告げようと心の中で強く感じた。
「俺が悪かった。目が覚めたよ。強力な助っ人に心当たりがある。相談してみる。」
強大な敵を倒すため、ある人物を思い浮かべ、ダバスドは疲れた顔で笑った。
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