第17話 会議

 この街で名の上がるアボーブは、前の街とは段違いに強く、全くの別世界に連れてこられたかの様だった。死傷者も当然多く、才ある者でも簡単に死ぬ可能性すら秘めていた。それなのに、ダバスドたちはそんな環境においても前進し、数々の勝利を収めていた。(その成長を事細かに伝えたいのはやぶさかではないが、切りがなくなるので割愛する。)一年が過ぎようとした頃にはここでのアボーブ討伐も無理なくできるレベルにまで到達していた。 

 その他討伐者もしのぎを削り、ウィシュディやカレンなどにおいても街で注目される存在になりつつあった。運命というものか、類は友を呼ぶと言うべきか、ダバスドが関わった討伐者はこの様に才ある者が多かったのだ。(一部、エンサントやムードゥーなど、強くはあったが滝を上る勢いでない者もいたが。)

簡単な魔法も教わり、剣に炎を纏わせたりする程度のものは扱えるようになっていた。とはいうものの魔法は相手を選び、万能ではないことを同時に学んでいたのだった。

 そんな調子のダバスドに重要な依頼が再び舞い降りたのは、そう遅い時期ではなかった。財団側も実力を認め、今回の件で呼び出したというわけだ。呼び出しは、以前の街でアーケンに呼び出された時以来のことだ。しかし、今回の依頼は試験の様なものではなく、この街特有の、討伐者を交えた会議によるものだった。ここでは優秀な討伐者を集わせ、その中で作戦を決め、パーティを編成するという流れだった。

中央本部の会議室には、ダバスド、コープル、ウィシュディ、カレンの顔ぶれと共に、馴染みの薄い討伐者が四人招かれていた。他の依頼を共にしたこともあった者もいたが、ダバスドにとっては、最初にあげた三人のとの絡みが圧倒的に深かった。ここでのメンバーもそれぞれの役職に当たるものが二人ずついるバランスの取れた人数だった。

「こうして顔を合わせるのはこの街に来て以来だな。だが、これからは長い付き合いになるだろう。さて、会議の内容はアボーブについてだ。相手は「プロダクター」と呼んでいるもので、その名にあるようにアポカルを生み出す存在でもある。非常に厄介なことに死霊術の類も使ってくるため残党も多い中で戦うことが余儀なくされる。最近墓所の方で復活が確認され、我々も手を焼いているというわけだ。」

 ナルターは今回の敵についての情報を討伐者たち与え、資料を配った。ニードトキス討伐の時とは違い、財団にしては珍しく事細かな情報がそこには書かれており、どういう見た目かをデッサンしたものまで添えられていた。

「詰まるところリッチーだろ?多数を相手にするのは得意だが。殺した奴まで復活するんじゃなあ。」

 資料に目を通しながらウィシュディは頭を掻いた。傍に居る残党もプロダクターが生きている限り何度でも蘇ると記載していた。

「どう呼んでもらっても構わないが、実のところ違う。デッサンには人型で書かれているが、今回は特殊個体だ。リッチーの能力は持ち合わせているが。我々も迂闊には近づけんため目撃情報になるが、どうやら無機物のような見た目だそうだ。それと残党は本体が倒せれば無力化できるため、短期決戦に持ち込んで直ぐに本体を叩けば勝ち目は作れる。」

 ナルターはデッサンが真実ではないことを訂正し、解決の糸口を討伐者に提示した。勿論、その論理をどう実践するのは討伐者の役目だ。

「それはいいんだが、おたくらが提示する内容はいつも不透明だな。今回も相手は分かっているのに、その姿も不確定とおっしゃるし。」

 口の尖った男が不満をたれ、皮肉っぽい言い方でナルターを責めた。この男は「モータ」という者で、毒のある人間だが実力はお墨付きだった。

「それについては申し訳ないと思っている。我々が保有する戦力は討伐者を除いて他はない。その他の技術に関しての自身はあるが、戦えるものは少ない。できる限りの情報は提供するつもりだ。」

 ナルターは誠実そうに弁明したが、深々と頭を下げるようなことは無かった。それに対しての責任があることは弁えているが、それを受けるどうかは本人たちに委ねているからだ。

「そうかい。まあ、ないもんはしゃあない。」

 意外にもナルターが謝罪の念を表したためモータは言い返すことはなく、再び資料に目を落とした。

「それで、何を基準にメンバーを選定するの?」

 コープルが論点を戻し、話し合いに意味を持たせようと務めた。

「リッチーの特性は継いでいる。そのため、残党は火を使えば蘇生を長引かせることができるだろう。」

 ナルターがまた情報を提供し、討伐者たちに意見を求めた。最も、誰が何を得意としているかは把握しているのだが、それでも討伐者に決めさせるのだ。

「剣に数十秒火を纏わせるくらいはできるが。果たして役に立つだろうか。」

 ダバスドは自分が出来ることを主張したが、その魔法を実用的に感じていなかったため、控えめな発言をした。

「俺は風を起こすくらいだ。アタッカーはダバスドでいいんじゃないか?」

 ウィシュディは自分と並ぶアタッカーの枠をダバスドに譲った。流石に今回の相手にバランスの良くないパーティで挑むのは骨が折れるという冷静な判断があった。その意見は通り、晴れてダバスドが討伐することとなった。(皆が我こそはと主張しないのは、これが英雄になるための敵でもないし、会議がどういうものかを把握していたためである。)

「おい、よくアンデット特攻なんて言葉があるが、あんたの力はどうなんだ?」

 次に誰を思案しているかを皆で検討していると、モータがカレンに対して鶴の一声を挙げた。カレンはいつもの様に修道服を纏っているため、イメージはしやすかった。

「はい。ある程度は特攻があると思います。ただ問題なのは、私が使えるものはどれも殺傷性がないものばかりという事です。でしたら、もう一人のヒーラーが適任かと。」

 カレンはそれに対し自分を下げた回答を示し、もう一人いたヒーラーに目を向け、意見を聞こうとした。

「あっしは別に構わないけど。リッチーに対する有効打は少ないよ。戦えないこともないって感じだわ。」

 名を「ケトラン」と言い、今回の件には興味をあまり示していなかった。今まで会議には何度も呼ばれ、場慣れしているのが主な要因だった。リッチーを相手にしたこともあったし、手に余るとも考えていた。。ダバスドは特殊個体という言葉に警戒心を示し、この戦場にカレンを連れて行きたくないという勘と言うか、思いと言うか、そんなものがあった。

「悪いが、何ができるかを聞かせてくれないか?」

 その思いの元、ケトランにダバスドは食い下がった。直接、カレンに危険が及ぶという発言は討伐者であることを愚弄し、否定する行為だった。例えそれが聖人で、そのままの言葉で伝え反論がなかったとしても。

「攻撃魔法の類は使わない。武器にはトンファーを使ってる。回復は奇跡ではなくポーション、回復魔法って感じ。だから短期決戦型でもないし、死体に対する有効打は少ないよ。」

 正直に自分の情報を皆に伝え、ケトランは答えた。あくまで適任かどうかで考えており、やはり今回の件に関してはどちらでも良いというような印象を与えた。

「相手の動きを止められるのならカレンがいい感じだね。」

 コープルもダバスドの事情などは知らず、皆に間違いがないかを確認した。全員が頷いたことで公正な判断の元、カレンが選ばれることとなった。

「後はタンクとサポーターか。俺はタンクだが、そちらはどうだ?」

 同じく話していなかったタンクにモータは話しかけた。皮肉っぽい性格をしているこの男だが、物事を適切に判断することはできた。また、皮肉が多いが根の腐ったような質の悪い者でもなかった。

「おらは問題ない。火も多少なら使える。攻撃してきた相手に火で包む技だ。動く相手には守り専用だが、カウンターにはなる。」

 この男は火の話が出ても挙手をしない控えめな男で、名を「アインツ」と言い、なまりがあるのが特徴だった。

「だったら先に行ってくれ。じゃあお前でいいじゃないか。」

 モータはアインツを小突き、やれやれと首を振って言った。彼は決して責める意図はなく、彼なりのコミュニケーションだったが、普段の表の性格から誰もがいつもの嫌味と受け取った。何はともあれタンクも決まった。

 そしてサポーターは話し合いもほとんどなく決まった。最後の最後まで首を縦にしか振らぬ男が自分の番だと悟り、残るコープルに黙って指を指した。

「せめてできる事でも言ったらどうだ?」

 ウィシュディはそれを見て、その男の意図を汲み取ったが、それでは話し合いの意味がないのだ。

「それがしは、サポーターという役割には準拠していない。ただ飛び道具で敵を倒すだけだ。」

 この男は「フライマ」という者で、この中でも指折りの強者であったが、故に自分の才をひけらかしたくなかった。なぜ呼ばれたのか。それはこの狩りにおいて有用と判断されたからであり、そもそも得手不得手があるとしても、不適任な者などいないのだ。この男も今回の件に加わる価値があるが、はなから断る気だった。

「無理強いはしないよ。譲ってくれるなら僕が引き受けよう。」

 フライマを説得するのは難しいと判断し、コープルが役を担うことが決まり、この会議は終幕を迎えた。ほとんど見届けていたナルターが今度はしゃべりだし、締めを行った。

「有意義な話し合いの元、メンバーが決まって喜ばしい。その四人という事で問題ないな。後は日程を決めてくれ。できるだけ早くな。」

 そう言い終わる前に、他の討伐者は席を立ち、部屋を出て行った。それがここでの

習わしであり、一種の礼儀でもあった。

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