第15話 殿堂
街に帰ってきて、そのまま解散という所でウィシュディはダバスドに話しかけた。
「そういえば明日は「英雄会」だ。街にある殿堂に来いよ。良いもんが見れるぜ。」
またも初めて聞く言葉をダバスドは耳にした。それがどういうものかは名前から想像はつかなかった。
「英雄会?それはなんだ?」
ダバスドはとりあえず、行くかどうかを決めるためにそれが何かを知ることにした。
「まあ、簡単に言えば英雄を称える催しだ。今まで大きな偉業を成した英雄が集ったり、新たな英雄を称えたりするものだ。今回は新たな英雄は居ないらしいが、見ものだぞ。詳細は来たら語ってやる。」
英雄、というのがどういう基準でなれるものかは分からなかったが、ダバスドは面白そうな催しだと思うことができた。
「明日、友人と一緒に来てもいいか?」
コープルの事が頭に過ぎり、そう返した。二人で英雄というものを目の当たりにするもの悪くない。そう考えたのだ。
「構わないさ。じゃあ明日は定時に殿堂に来い。場所は地図に載っている。」
ウィシュディはその事を快く引き受けた。というわけで英雄会と言うものに顔を出すことが決定した。
ダバスドは帰りにコープルの家に行き、そのことを伝えにいったが、コープルも既に知っており、同じく誘うことを検討していたという事で、余計な手間は省かれることとなった。
翌日の昼前、例の殿堂と呼ばれる場所に二人は着いた。殿堂は神殿のような建物で、何段もの高い階段の上に広間があり、その先が殿堂と呼ばれている建物となっていた。
広間は人がちらほら居り、どうやら大半は既に殿堂の中にいるようだった。二人がその広間に着いて暫く待っていると、ウィシュディが階段から上ってきて合流した。
「おう、お前か。俺はウィシュディ。催しは中だ。先に入っておこう。」
ウィシュディはコープルに対して自己紹介を行い、殿堂へ指を指した。
「よろしく。僕はコープルだ。情報は少し耳にしているから楽しみだよ。」
コープルも自己紹介を行い、早速中に入っていく事となった。(ダバスドには敬語を使わない仲であることは知らされていた。)
中は長い廊下があり、壁には幾つもの肖像画が掲げられ、キャプションのようなものも確認できた。
「英雄になった者は「二つ名」が与えられるんだ。俺がもしなったら円舞の双剣ってとこか。いや全然捻りがないな。まあ、そんな感じだ。俺たち討伐者にとってはこの二つ名を貰えることが一つの到達点だ。非常に栄誉で財団も特別に扱っている存在になる。」
廊下の肖像画に目を向けながら、ウィシュディは解説をした。今回の英雄会ではそんな人物たちが集まり、再び紹介されるという流れで、この儀式で集まる者の中には未だ討伐者として活躍しているものも多数存在するという事だった。
「へえ、でも若い人もいるんだね。天才とかなのかな。」
コープルはまじまじと見ながら廊下を歩いていた。肖像画の中には自分たちとほとんど変わらないような者も居り、年齢層も深いと言うわけではなさそうだった。
「まあな。財団が選んだ精鋭の中の精鋭だからな。素質は元々あってそこからもっと伸びたとかそんなんだ。かく言う俺も、いや、この街に居る討伐者のほとんどがその名を手にしようとしてるさ。」
こんな会話をしていると、大きな門のような扉の前についた。中は会場になっており、扉越しにざわざわと人の声が聞こえてきていた。
扉を開けると会場には人がひしめき、広い空間を埋めていた。前には高い壇上があり、皆がそこを見つめて始まることを心待ちにしている様子だった。壇上の上には玉座の様な椅子が数個並んでおり、それが今回の英雄の数だと予想がついた。
切りよく、ダバスドたちが入るとナルターによる演説が始まった。壇上は見上げる位置にあるため、会場のどこからでも見ることができた。
「お集りの討伐者の皆さん。今日は英雄会の日です。今日お呼びしたのは既に戴冠を得たものですが、まだ「殿堂の回廊」に名のなかったものたちです。ではご登場ください。」
殿堂の回廊というのは先ほどダバスドたちが歩いてきた廊下の名称だった。ナルターが
「オルテンじゃないか。あいつそんなに強かったのか。」
そう、ダバスドと同じ年の、それも話したこともある者が有名人だった。
「知ってるのか。魔法がすこぶる得意で、財団もこの上ないほど重宝している。二つ名は…」
ウィシュディもダバスドが知っていることに驚きその名を口にしようとしたが、オルテンが最初に立っていたのでその前にナルターが口にした。
「彼女はオルテン。またの名を「永劫の魔道」。空を脅かしたアボーブ、「ルートカース」の襲来を阻んだことがその功績の証。その他素晴らしい活躍を見せてくれたが中でも…」
ナルターはハキハキと紹介し、オルテンを建たせていたが、肝心のオルテンは顔が引きつり、とても嫌そうだった。その表情にみんなは気づいていたが、式はそのまま行われていた。
「今では大きな依頼しか受けないらしい。伝説的な話も耳にしたがどこまでが本当かは明かされていない。討伐者の中でも異質だな。」
ウィシュディは話の続きをし、二人に語った。討伐者の功績の中で、最も有意義な事柄は公開されるが、その他の記録は基本的に財団が保有することとなっていた。それでも、名を挙げた討伐者は自分の遍歴を公開することを好み、隠し事がそこまでないものが多かったのだ。
「またアイツに聞いても大丈夫だろうか。昔話をしたくないといい、あの表情と言い、昔はあんなに絡みづらかったか。」
ダバスドはオルテンに親しみを感じていたが、より距離が離れてしまったようにも感じた。ただの店主ではなく、討伐者としての高みにもいることが分かったというのもその要因の一つだ。
「お次はグティス。またの名を「霊剣たる破壊」。異界からの刺客だった…」
と残りも紹介されていた。オルテンを除く二人は同じパーティだったと予想ができ、その相手となるアボーブは同じだった。オルテンの時は気を使われていたようだったが、グティスたちの時は会場が盛り上がりを見せ、口笛や拍手が喝采し、英雄になるということの重きをダバスドたちに伝えた。
「お前らも英雄になることを一つの目的にしたらどうだ?高みを目指す指標にもなるぞ。」
紹介も終わり、英雄たちが玉座についた所でウィシュディはダバスドたちに語り掛けた。ナルターは終わりの挨拶に取り掛かっており、儀式はもうすぐで終わりそうだった。
「もちろんさ。無茶苦茶かっこいいじゃないか。僕もああなりたいよ。ここに来てる者は少なからず、興味があるんじゃないのかい?」
今回の儀式は十分に意味があり、多数の討伐者の士気を著しく挙げていた。コープルも興味を持ち、遥か高みの栄光に目を輝かせていたのだ。
「俺も興味がある。でも、ああいうのもいるしな。全員がああなりたいわけじゃないだろう。」
ウィシュディに問うたコープルだったが、ダバスドが口を挟み、壇上にいるオルテンを顎で指した。
「そう簡単になれるもんでもねえ。それに固執しすぎても仕方ないのも事実だ。」
とウィシュディが腕を組み、自身が溢れているこの男にしては現実的な答えを出した。そう言っている間に儀式は終わり、肖像画が掲げられ締められた。会場からは次々と討伐者が清々しい顔をして出て行き、三人もこれに続いて建物からでることにした。殿堂の回廊も来たときとは一味違い、ここで偉業を成しえたものが並んでいると思うと考え深かった。
「いやあ、良いものが見れたよ、ウィシュディ。また依頼でもなんでも共に行こう。」
広間でそれぞれの用事に戻ることとなり、ダバスドはウィシュディに礼の言葉で別れを告げることにした。
「暇なときはな。今度は戴冠の儀でもするだろうからその時はまた呼ぶぜ。」
ウィシュディも笑って頷き、階段を早々と降りて行った。明日は依頼があるらしく、今日は一人でゆっくりと過ごしたいということだった。
「コープルはどうする?食事でも行こうか。丁度昼時だ。」
元気よくウィシュディに手を振るコープルにダバスドは聞いた。英雄についても想像を膨らませ、少し語りたいこともあった。
「いいよ。その後は新しい依頼でも探しに行こうよ。」
コープルはそれを引き受け、二人はレストランへと向かった。レストランでは英雄のことと、今日上がったアボーブの名前が書籍に載っていたことなどについて語っていた。その後も依頼を探しに行き、ここでの日常が彼ららしく染まっていっていた。
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