第13話 知り合い
翌日の昼過ぎ、約束通り二人は街を探索することにした。疲れは取れ、一日休んだ甲斐もあって、心置きなく街を闊歩できそうだった。
「コープルは何処か行きたいところかあるのか?」
ダバスドの第一声はこうだった。昨日は自分の要望だけが通ってしまったため、コープルの事情を優先したかった。コープルはそれに対して親指を立て
「よくぞ聞いてくれたね。僕はなんと言ってもポーションやその調合品だね。あれは僕にとっての武器でもあるから。」
と興奮気味に答えた。レリックショップのこともあり、その期待は大きかった。
「良いな。では早速行くとしよう。」
ダバスドも賛成し、先ずはそこに行くことになった。少し歩いていると、商店街の中腹に目的の場所があった。レリックショップと同じく規模が大きいもので、木立の物だったが、生活感があるため一軒家のようにも見えた。
「かなりのおんぼろだな。ここで間違いなさそうだが。」
その建物の看板には大きく、「ポーション製造販売」と書かれていたため間違い様は無かったが、如何せん年季が入り、所々に老朽化が進んでいるのが確認できた。それを補うかのようにガーデニングが施され、色とりどりの花がレンガ調の花壇に植えられたいた。ここはポーションに適した薬草やキノコ、他にも様々な素材が売っていて、ポーション自体の製造販売も担っている場所だった。
「老舗って感じで良いじゃないか。僕は好きだよ。早速入ってみよう。」
コープルはこの外観を気に入り、がっかりするようなことはなかった。コープルが木のドアを押し開けると、ちりん。と心地よいドアベルの音が鳴り響いた。中は薬局のような場所で、薬や素材の陳列棚と、前に平たく長いカウンターがあった。商品の中には四角いテーブルに無造作に置かれているものもあったので、個人経営感が抜けきらなかった。棚も全て木で出来ていたため、年季は一層深く見え同時に居心地のいい場所でもあった。建物内は独特な薬の匂いが充満していたが、エスニックで悪い感じではなかった。
「いらっしゃ~い…」
ダバスドたちが店内に入ると、店主と見受けられる人物がカウンターで作業をしており、やる気のなさそうな声でそう言われた。とんがり帽子によれよれのローブを羽織った若い女性で、いかにも魔女と言ったなりをしていた。
「ねえ。見たこともない薬草がたくさんあるぞ。あれ、ダバスド、どうした?」
店に置かれている商品たちに興味を示したコープルだったが、ダバスドがなぜか固まっていることに気づいた。
「いや、もしかしてと思って…やっぱりそうだ。お前「オルテン」だよな?」
ダバスドはカウンターの方まで歩いていき、店主の姿を確認して確信した。そこに居たのは学生時代に同じ学校に通っていた女性だった。
「ああ、ダバスドだっけ。へえ、ここに来れる素質あったんだ…」
オルテンもダバスドのことを思い出した。それほど仲が良かったわけでもないが、ここで出会えるというのは新鮮だった。
「あの、知り合い?」
そうであることは明確だが、コープルはダバスドに確認を取った。
「そう。学生時代のな。まあ、間に立って紹介するような仲でもないが。」
ダバスドは答え、オルテンに手を指し紹介した。お互いが自己紹介を終え、知り合いとなることができた。
「どれくらいからここに居るんだ?」
ダバスドはコープルが薬草などを閲覧している間、オルテンと世間話をすることにした。ここであったのは何かの縁で、親睦を改めて深めるというのも悪くはないだろう。
「あんまり昔話はしたくない。この街のことなら教えてあげられるけど…」
常にオルテンは気だるそうにしていたが、この件に関しては単に話したくない様子だった。世間話のつもりが嫌な詮索をしてしまい、ダバスドは気まずくなった。しかし、それを気にした様子がオルテンには無かったため、息が詰まらずに済んだ。
「じゃあ、お前の仕事は?」
話題を切り替え、ダバスドは次の質問をした。知った顔と再開することは討伐者になってから一度もなかったので、嬉しい気持ちもあった。
「そうね。ポーションの製造と販売…後は魔法の研究。本当はそっちが本業だけど…」
カウンターに併設された作業台に置いてある三角フラスコを傾けながら、虚ろな目でオルテンは答えた。おとぎ話でしか聞いたことがない言葉にダバスドは耳を疑った。
「今、魔法って言ったのか?ここではそんなものが使える者がいるのか?」
驚き、膝を進めて聞いた。当然、前の街での討伐者に奇跡などはあったが、魔法のまの字もなかった。
「ここの人はみんな知ってるわよ。あんたも簡単な魔法なら使えるようになるわ…訓練でも教えてもらえるはずだけど…」
オルテンはさも当然化の様に振る舞っており、驚き慌てふためくダバスドを見ても顔色一つ変えなかった。
「凄いな。ますますここでの暮らしに興味を持てた。ありがとう。」
訓練を受ける意味を理解できたダバスドは、感謝の言葉を述べた。
「私何もしてないわよ…」
ダバスドとオルテンの間には完全に温度差があり、方や再開を喜んでいる節があるのに、オルテンにはその様子もなかった。
「すみません。これとこれの組み合わせって、問題ないですか?」
そうこうしているうちに、コープルも色々と店に陳列されている商品に目を通し、未知の素材について知識を深めようと、オルテンに聞いた。
「ええ、問題ないわ。持続回復がなくなるけど…回復に特化するならそっちの棚にあるのがいいわ…」
その問いかけに対してオルテンは正確に答えた。気だるそうに体を引きずっていたが、ここでの店主としての役割は十分に担っていそうだった。
「ありがとうございました。また来ます。」
暫く薬草や毒草について教えてもらったコープルは切りの良い所で店を出ることにし、会計を済ませてダバスドと共にその場を去った。
「結局買っちゃった。ダバスド凄いね。あんな人と知り合いなんて。オルテンさんはかなりの博識だよ?討伐者もやっていたりするのかな。」
コープルは紙袋に入った薬草の香気をうっすらと嗅ぎ、ダバスドに聞いた。二人の会話には入っていなかったので、どういうやり取りがされていたかは知らなかった。
「謎が多い。過去についても語りたくなさそうだった。討伐者をしている風には見えないが。」
本人が語らない以上、深く知ることは難しかった。憶測の域を出ないのは確かだが、頼れる人物というのは確かなので心強いことも確実だが。
その後は、武器屋や防具屋に赴いて、商店街を回っていった。それらも例に漏れず、洗練されたものたちで、ここで装備を新調するという選択肢は限りなく有意義であることを二人は理解できた。(武器などに関してはひとまず前の街のものを引き継いで使うことにしていた。)新しいものだらけのスートファイスは新たな扉を開ける好奇心を再び刺激するものだった。
「いやあ、良かったよ。随分楽しんだし、日が暮れる前に訓練の手続きをしに行こう。」
コープルは自分たちがすべきことを思い出し、提案した。彼らがゆっくりと街を堪能し終えた時には、既に日は沈みかけていた。
「そうだった。確かに。明日にでも受けられるなら良いが。」
ダバスドもそれに賛同し、二人はスートファイス中央本部局へ行くこととなった。
そこは大使館の様な場所で、白い大理石の建物に厳かで古風な装飾があしらわれた場所であり、かなり改まった様な雰囲気だった。機能的には前の街の作戦会議本部と変らないが、立派な研究室があったり、討伐者を交えた作戦会議が行われることがあったり、はたまた財団職員が多く行き来する場所であったりと、財団の本部だけあり様々な役割が担っている場所だ。ナルターがいた一室もここにあり、財団の作業場でもあった。
とはいうものの、やはり訓練や依頼を受けるシステムにそこまでの誤差は無かったため、あっさりと待機室のカウンターまでたどり着き、手続きを進めることができた。
「訓練のご依頼ですか。はい、承っております。メンバーもこちらが既に選定したものがいくつか居ますよ。」
受付の女性に、一枚のリストを、それぞれに貰ったダバスドたちだったが、別枠でメンバーが設定されているため、二人は別チームとなった。(財団側も今までのデータを把握しており、ダバスドとコープルが共に多くの依頼をこなして来ていたのを知っていたが敢えてこうしていた。)訓練に関しては前と違い、既に戦闘に慣れたものが同意しそれらと受けることになっていた。
「まあ、いいか。また依頼の時は頼むぜ。コープル。」
自由に組んでもいいルールはあったが、わざわざ断るのも面倒なので財団に任せることにし、ダバスドはそのリストから適当にメンバーを選定し、訓練を受けることにした。
「そうだね。あちらにも考えがあるだろうし。」
コープルもリストに目を通し、それを提出した。二人は段取りよく、明日にそれを受けることができるということだったので、その場で解散し、明日に備えて早めに休むことにした。
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