第12話 未知の世界

 財団本部の街、スートファイスに到着したのは実に十何時間もの時間を要した。馬車での移動だったが、途中何度も中継点となる街にそれを止めて進んでいた。ダバスドとコープルは同じ馬車だったが、エンサントは日付の都合で此処にはいなかった。

 向かうべき街の周りは自然が豊かだが、人工的な建物も幾つかあった。中には何百年も前から存在していたかのような古臭いものもあった。

 肝心な街は、見上げる程に高い鉄の壁に囲われた都市であった。オートヴェムの様に街らしい街で、本部という名前の割には生活の基盤が整っていた。規模も相当なものではあるが、討伐者の数は他の財団が運営する街よりも総合的に少ないと言えた。雑多にあふれるようなものは居らず、財団が選び抜いた者だけが集うのがその理由だ。人口は少なくないものの、その性質上、横の繋がりは深いものが多かった。

 ようやく着いて、伸びをしているダバスドたちの前の門がゆっくりと開き、一人の男がそれらを向かい入れた。

「ようこそ。希望を背負いし諸君。私はナルターだ。ここの管理者、依頼の統合を行っている者だ。君たちの到着を心待ちにしていたよ。この街は特殊で君たちの知らないことに溢れている。落ち着いたら、先ずは訓練を受けてくれ。手はずは前の街と変らないだろう。」

 ナルターは手を差し伸べ、握手をした。しかし、ダバスドたちは奇妙に感じた。というのも自分たちはもう訓練を受けるような身にはなく、戦いを弁えていると思っていたからだ。

「ありがとうございます。今日は街を探索しても構わないですか?知りたいものも多いので。」

 コープルは好奇心旺盛にそう言い、握手に応じた。郷に入っては郷に従えで、疑問に思った節もあったがとりあえずは従おうと考え、それを口にはしなかった。

「もちろんだとも。街も君たちの興味を惹くものに溢れているに違いない。自由に使ってくれて構わない。これが地図だ。案内を付けようか?」

コープルの問いにナルターは快く返した。財団としても雇用者としても申し分ない対応だった。

「いえ、結構です。地図があれば何となく分かりますから。賃貸の手続きも前の街と同じでしょうか?」

 今度はダバスドが答え、質問をした。好きに見て回るという事を楽しみにしていた節もあた。門から見える街はただ機能だけを追求したものではなさそうだった。

「そうか。何か分からなければ案内所がある。そうだね、何も変わらない。」

 ダバスドの問いかけにも答え、応対した。すると下がり、ダバスドたちを街の中へ入れた。馬車は元の場所へ戻るため走り出し、去っていった。

 街に入ると賑やかで平和な雰囲気があった。百戦錬磨の強者が集うこの場所だったが、日常的な営みは普通で、心休まる場所だった。幾つもの店が並ぶ商店街、豪華な装飾が施された大きな建物、明るい日が差し込む住宅街と、とても財団だけが管理しているような場所には見えなかった。そんな街の様子にダバスドたちが見とれているといつの間にかナルターの姿は無かった。

「もっと戦いに暮れるような殺伐とした所をイメージしてたけど、断然良いじゃないか。ダバスド、これからどうする?街を散策するかい?」

ここの雰囲気で疲れが飛んだコープルは、休むことを忘れ、好奇心に駆られてこう提案した。

「そうだな、少しだけ回ってみよう。どんなレリックやポーションがあるかも気になるしな。」

ダバスドもこの街の情景に心を奪われ、強く惹かれた。また言う通り、精鋭が集まるこの場所にどんな優れた品が揃っているのかが気になった。

 街を闊歩していると、討伐者のような者が散見できたが、どれも個性的な見た目をしており、オートヴェムに居た時より、その独自性は極まっていた。例えば、大きなハンマーを持ち、ワニガラのジャケットを羽織る者や、背よりも高い槍に臍を出してピアスを多く開けた者などがいた。それらが目立つが、普遍的な格好をしている者もいるのでそういう特色が濃くでているだけのようだった。

「凄いね。何だか見ているだけで熱くなってくるよ。」

それらを尻目に商店街を歩いた。目立つものはそれなりに戦闘に自信があるのか、暑苦しい印象を与えた。

「まずはレリックショップに入ろう。」

ダバスドは木立の店の前に立ち止まり、コープルに促した。その店は前の街のものよりも二回りも大きかった。中もかなり広く、大きな棚が三つほど並び、その周りを巡回できるようにもなった。壁にも前と同じく首飾りが掛けられたりしており、基本的な構造は同じだが、ショートケースに入った物があるなど、雑貨屋と言うには少し勿体なかった。

店の中を回り、その効力に漫然と目を通していく。明らかに前とは違う性能を持っているものがそこには並んでいた。「中には毒を完全に無効にする」「攻撃に体力回復を付与する」「バフの効力が一分長く持続する」など、明らかに戦闘に干渉するよう効果があるものまで並んでいた。

「ナルターさんが言っていた、知らない世界というのも解る気がするな。信じがたい効果のものがたんまりある。」

情報収集が好きなダバスドにとってここは正に知識の泉だった。どれも目を惹き、驚かせてくれるものだった。

「おう、お前ら。見ない顔だな。知らないと思うが、今のお前らには着けれないものもあるから注意しろ?」

コープルがダバスドの問いかけに答えようとしたところ、店の奥の部屋から髭を生やした男が顔を出し、呼び掛けた。

「どういうことですか?」

その呼びかけに理解が追いつかないコープルはその男に問いかけた。オートヴェムには適切でないものはあっても、使用できないようなレリックはなかったからである。

「説明すると長くなるんだが、「マナ」というものが人にはある。その関係で無理なものはある。初めてってことは訓練があるだろ?詳しくはその時に学んでくれ。」

 男は聞き覚えのない話題を口にし、無理な理由を答えた。ダバスドたちは訓練に何かあるということを知り、それへの疑問も軽くなった。

「ありがとうございます。すみません、冷やかしになりますが、見ているだけなんです。」

ダバスドはそれにも関心を示し、この街でより多くを知れることに喜びを感じた。男は構わない。と笑って返し、ダバスドたちが居座ることを嫌とは思っていなかった。何となく、目を通したダバスドたちは礼を言い、店を出て行った。

レリックショップでかなりの時間を使っていた二人はようやく、自分たちに疲れがあることを思い出した。

「申し訳ない。ここを回るのは明日にしないか?家の手続きもあるし、この街は広い。」

ダバスドはコープルに向かって申し訳なさそうにそう告げた。同じく、コープルにも同様の都合があったため、意見が食い違うことは無かった。

「仕方ないよね。僕も丁度疲弊してたところだ。ふかふかのベッドが恋しいよ。明日の昼にでも。訓練も落ち着いたらしようよ。」

と、こんな感じに今後の予定が決まり、明日に改めて会うことにした。ダバスドたちは案内所に共に言ったが別々の契約をし、家を借りることとなった。家も近く、普段合うのにも遜色は出なさそうだった。

まだ、この街が特別であるという片鱗しか見ていないダバスドたちだったが、今までとは確実に違う世界に来たという事は身に染みて感じていた。

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