第11話 財団

「機密事項は書類に書いていただろう?なぜ我々が討伐者にアポカルの情報を全て開示しないかをもう一度考えろ。今度はないと思え。」

 ここはこの街の財団職員の主な職場、「スートファイス」という街の理事室。ここではアポカルの研究と共に、討伐者への依頼を出す親元といったところだ。今、部下に向かって卑下しているこの男、「ナルター」はここの管理者を任されていた。本部の管理者というだけあって、知られざる秘密とその責任を担う男だ。

「全く。アポカルが世に知れ渡ることにもっと危機感を持って欲しいものだ。」

 ナルターは部下が部屋を去った後、葉巻に火をつけ、それを蒸かした。掃討奮起は常日頃からアポカルの研究を続け、その危険性が市民に及ばないことも一つの目的としていた。

「またか。厄介なことになってきたな。しかし、これに関しては周知の事実になってきているのは好都合だ。」

 とある資料に目を通しながらナルターはぼやいた。そこには最近の事案と共に、進んだ研究結果について書かれていた。表には「変異体」と副題が書かれていた。さっきここを出て行った部下はそこに書かれていた機密事項を適切でない場面で口にするという粗相をした。いずれ開示するような内容でも、今日開示するか明日開示するかでは全くの別物なのだ。それほどまでに情報は命で、軽んずることは許されなかった。

「そういえば三日後は派遣日だな。随分と久しぶりに感じるな。ニードトキスか。まあ、この街ではやっていけそうか。」

 次に、今度来る三人の討伐者に関する報告書に目を通した。そこにはダバスドたちの戦績と、出生、功績などが並んで書かれていた。それに目を通していると、再び違う人間がドアをノックした。

「失礼します。例のプロジェクト、オペレーション:アンビシャスについての報告です。」

 部下は資料を抱え、扉の前に立っていた。ここではこの様に遂行するプロジェクトを決め、最終的な決断をナルターが下すというシステムだった。

「そうか。丁度いい。それについても検討していたんだ。で、進捗は?」

 ナルターは部下に尋ねた。変異体と書かれた資料がそれにあたり、ここでもトップシークレットにあたる重要なプロジェクトであった。

「それが、ですね。変異体の無力化は現状の戦力では難しいです。あれが、そういうモノを対処する我々の希望だったはずですが…皮肉ですね。」

 話し合っていたのはその変異体をどう対処するか、という問題で、この事態は財団にとっても大きな打撃に繋がる問題だった。

「変異したものはもう元には戻らない。それが何だったかよりも、今、何であるかという事が重要だ。変異体は引き続き全身全霊で掃討する。放っておいたらそれこそ世界的な危機になりかねん。その時に備えて再び観測を強化しろ。」

 ナルターは以前から意思を曲げず、「変異体を救う」という選択肢を諦めていた。実際、変異体と呼ばれるものは厄介で、技術的にも救うことは難しかった。

「しかし、早く対処しないとまずいですね。敵う相手がいればですけど…」

 部下は心配そうにナルターに問いかける。それを倒すことができないとなれば、世界的な災害にもなり得る重大な案件だったのだ。

「それが、面白い。大きく作用すれば、今まで動かなかった者も動いてくれるかもしれない。今度の新人に期待だな。」

 ナルターは不敵な笑みを浮かべ、部下が持ってきた資料を受け取った。ダバスドたちの資料を見る中でとあることに目をつけ、事が良い方に傾くということを少し期待したのだった。

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