第10話 栄冠

 授与式は思ったよりも淡白に、そして早く終わり、打ち上げの様な催しをしようということに四人の間でなったが、直ぐに招集が掛かりその予定は後ろ倒しになった。

今回も招集された場所は例の会議室であった。待って数分、またアーケンともう一人が入って来たが、今度は補佐ではなく、最初ダバスドがここに来たときに演説をしたエドだった。それ以来この街で顔を合わせたことは無かった男だ。

「おめでとう。諸君。君たちはまたとない偉業を納めた。」

 二人が席に着くと、エドが四人に褒め言葉で話し始めた。しかし先程授与式は終えているのでそれはなんだか畏まった形だった。

「さて、今回君たちが勝ち取ったもの。それは本物じゃ。我々も君たちを心の底から評価しておる。じゃがそれは通過点に過ぎない。我々財団が敵とするアポカルの中にはもっと甚大な被害をもたらす輩が星の数ほどいる。君たちにはそういう相手と戦えるようになってもらいたいのだ。ここにそれらを相手にするような技術は揃っておらん。そこでだ、アーケン。」

 エドが全容の見えない話の途中で、話しかけると、アーケンは一枚の資料を四人に提示し、それを見させた。

「それは我々財団本部の情報だ。我々が真に有力と見込んだ討伐者はそこに招きいれ、財団の最有力候補として戦うことを推薦している。かなりの遠方で、一般の人間は関与できない場所だ。当然、ここよりも危険で、敵も君たちが倒してきたものを凌駕する。そこに行くか、選択は自由じゃ。だが、場所は明言できないことを断っておく。財団の極秘情報を扱っている場所でもある故。」

 資料にはそこでの表向きの研究内容や、アポカルの制圧度など、その場所についての情報がざっくりと書かれていた。ここに行くという事は新しい討伐者としての門を開くという事で、今まで培ってきたものもそこに比べれば規模は小さかった。

「ゆっくりと考え給え。申請書類を渡しておく、よく目を通しておくように。」

 全員が最初に配った紙に目を通したのを確認したエドはそう言い、立ち上がった。アーケンも四人に頷き、前の様に四人だけを残して去っていった。申請書類には向こうまでの所要時間や、保証されるもの、また、行くところが様々な施設が整った大きな街だということなどの情報が事細かく書かれたものだった。その町は秘匿する情報は多いが、彼らにとってそこに向かうことが不利にならないようには配慮されていた。

 数分、誰もが黙って書類に目を通していたが、あちらでの暮らしで困るようなことを不安にさせる文脈も見当たらず、待遇も申し分ないものだった。

「俺は行こうかな。しばらく戻ってこれないみたいだけど、特段此処に思い入れがあるわけじゃない。」

 最初に話しだしたのはダバスドだった。彼には断る理由はなく、より大きな栄光は正に生きる意味を与えてくれそうだった。

「僕も当然付いていくよ。あっちでもよろしくね。」

 コープルもダバスドと共に討伐者としてのステップアップをすることに決め、新天地へ行くことにした。

「私も行こう。貴殿らともまた旅に出るのは悪くない。その時が来たらよろしく頼む。」

 エンサントも行くことにしていた。相変わらずダバスドとコープルのコンビ以外に固定メンバーのような者はなく、エンサントも例外ではなかったが、仲間としての立ち位置は大きかった。

「悪いが、吾輩はここに残る。ここなら故郷に帰ることも容易だし、ここには思い入れもあるんだ。高みを目指したい気持ちはもちろんあるがな。」

 全員が行くような雰囲気だったがラークだけは違った。戦いや栄光というよりも自分の居場所があることが彼の何よりの価値だったのだ。

「そうか、無理強いはしないさ。また手紙でも出す。」

 気まずそうに断ったラークだったが、ダバスドが肩を叩いて元気づけた。一緒に行くというのは心強いが、死に近づく選択肢だということもちゃんと理解していたのだ。

 ラークもさわやかに笑い、話し合いは終了した。四人で、酒場で騒いだ後は解散し、早速ここを旅立つ準備をした。ある程度の荷物をまとめれた三人は例の書類を数日のうちに提出した。それから直ぐに承認の旨が書かれた手紙が送られ、財団本部へ派遣されることが決まった。

 日付を調節した彼らは1週間後にここを出る手はずとなった。そしてその街に行くには相当早い年月だった。彼らには力があるが、世界を覆うような危機に立ち向かえるだけの才能があるかはまだ分からなかった。

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